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新ヨーロッパ通信

物価高の国・スイス

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 ミュンヘンからチューリヒに2泊3日で出張した。車で約3時間半で着く。このうち、2時間はドイツ、30分はオーストリア、2時間はスイスの高速道路を走る。ドイツの高速道路は無料だが、オーストリアは11.5ユーロ(1840円、1ユーロ=160円換算、以下同じ)、スイスは40フラン(7040円、1フラン=176円換算)の高速道路料金を払わなくてはならない。スイスの料金は1年間有効。1月1日に買っても10月20日に買っても同じ値段だ。1年のうち遅く買うほど割高になる。つまり、往復に8880円の高速代がかかった。
 チューリヒで、二人でハンバーガー、フライドポテトとサラダを食べたら、72フラン、日本円で1万2672円だった。それでも店は満員だった。円安を痛感した。ある美術館で切符を買おうとしたら、二人で65フラン(1万1440円)。この美術館に入ることが出張の目的の一つだったので、泣く泣く支払う。財布の中のお金が、まるで羽根が生えたように消えていく。
 スイスのある大手企業のミュンヘン支社で働いているドイツ人は、「確かにスイスの物価は高い。でも、スイスの会社の給料は、ドイツよりも高いよ」と言う。経済協力開発機構(OECD)の統計によると、2023年のスイスの年間平均賃金は7万7463ドル(1162万円)で、日本(4万1590ドル)の1.9倍だ。スイスの平均賃金はドイツ(5万8940ドル)の1.3倍である。
 OECDによると、23年のスイスの国民1人当たりの名目国内総生産(GDP)は10万2866ドル(1543万円)で、ルクセンブルクとアイルランドに次いで、OECD加盟国中で第3位。日本(3万3950ドル=509万円)の3倍だ。
 確かに、チューリヒの町を歩くと、建物のネームプレートや広告に「資産運用」「不動産」「投資」「保険」「銀行」などの言葉が目立つ。ここはロンドンと並ぶ、欧州随一の金融都市の一つなのだ。レストランで近くの席にいた人の会話からも、「税金」「収益性」という単語がしばしば聞こえてくる。
 会社勤めの人は良いかもしれないが、フリーランサーや飲食店の従業員の人たちはこの物価高の国でどうやって暮らしているのだろう。ミュンヘンからチューリヒに引っ越したあるドイツ人は、「チューリヒの家賃は、ミュンヘンのほぼ2倍だ」と語っていた。ただし、スイスでは所得税率や社会保険料率がドイツよりも低いので、手取りはドイツよりも多くなるという。
 取材も早々に切り上げ、急いでスイスからドイツに戻った。ドイツではあらゆるものが安く感じられて、安堵のため息が出た。
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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