サービス砂漠化するドイツ
数年前から、日本からドイツに小包などを送る際に、内容品の欄に「贈り物」と書いても、関税を払わないと受け取れないようになった。ひどい時には印刷物、つまり紙しか入っていないのに関税を取られる。自分が日本で出版した本の見本を出版社に小包でドイツに送ってもらうだけでも関税を取られる。
贈り物、特に印刷物について関税を払わされるのは不当だと思うが、払わないと小包や宅急便を受け取れないので、泣く泣く関税を払っている。先日も宅急便で届いた印刷物に、約20ユーロ(3200円)の関税を取られた。
以前は車で1時間くらいかかる税関まで行って、関税を払わなくてはならなかった。幸い最近では税関まで行く必要はなく、自宅に小包を届けに来る配達人に払うことができる。円安・ユーロ高の今日、ユーロで払う関税はばかにならない。
最近、ドイツでは鉄道が2~3時間遅れるのは日常茶飯事で、サービスが劣化していることは有名だが、ドイツ郵便もサービスがひどい。ほとんどの配達人は外国人で、ドイツ語をうまく話せない。
先日来た配達人は、ドアを開けるやいなや「Du, zahlen!(お前、払え!)」と言い放った。普通ならば「Sie mussen den Zoll zahlen.(あなたは関税を払わなくてはなりません)」と言うべきところだ。この配達人は簡単なドイツ語すら話せないのだ。
「お前、払え!」では、まるで泥棒か強盗が言う台詞である。ドイツ語の「本」(Buch)という言葉を知らない配達人もいた。配達人も、最低限のドイツ語の勉強をしてほしい。
不在時に郵便物を郵便局で預かるサービスを頼んだら、この期間に私宛に送られた郵便物が「受取人不明」で差出人に送り返されてしまった。ITシステムへの入力ミスだ。
先日、あるドイツ料理のレストランに行ったら、外国人のウエイターが勘定書きの計算ができず、食事の代金を払うのに15分近くかかった。
一部のドイツ人、特に保守派に属する人々が、自分の国にいながらあたかも外国にいるかのような疎外感を抱くのは、無理もないと感じた。ドイツでは至る所で人手不足が深刻だ。外国人がいなかったら、郵便配達、オフィスの掃除、ゴミの回収、空港でのトランク運搬などの仕事をする人がいなくなる。ドイツ語が話せないくらいでは、解雇する理由にはならないのだろう。
これらの例が示すように、ドイツのさまざまな所でタガが緩み始めている。34年間住むと、その変化がはっきり見える。ドイツ人ではなくても、悲しく思う。
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
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