デジタル時代の「人」の価値
紅葉が見ごろを迎えた秋晴れの日、友人と共に八ヶ岳山麓の高原へと旅行に出掛けた。昼食に新そばを堪能し、この後どんなレジャーを楽しもうかと辺りを見回したとき「天空カート」の文字が目に留まった。ハンドル操作なしに標高差200メートルの雲上まで運んでくれる自動運転カートだそうで、頂上からは富士山と、赤や黄色に染まった周辺の山々が望めるらしく、絶景を見逃す手はないと乗ってみることにした。
「天空カート」は、敷地内のゴルフコースで使われていたカートを再利用したもので、路面に埋設された電磁誘導線を感知して決められたルートを自走する。カートは急なカーブや勾配をものともせず状況に応じて加速・減速しながら頂上まで登り、自動で停止した。
なるほど、これならば高齢者や障がいのある人も移動に困難を感じることなく自然や絶景を満喫できる。モビリティテクノロジーを導入し、リユースやユニバーサルツーリズムなどSDGsにも貢献しながら、うまく顧客体験価値を高めているものだと思わずうなってしまった。
一方で、現場スタッフの応対も印象的だった。高齢者の雇用促進に力を入れているのかスタッフは年配の男性ばかりだったが、頂上で樹木を整備していたスタッフは、丁寧な道案内とともに、富士山を囲む雲海の白と紅葉の燃えるような赤のコントラストが素晴らしい絶景ポイントを教えてくれた。また、下山カート乗り場のスタッフは、間隔調整のための待機時間に客が退屈しないよう軽快なトークで楽しませるとともに、記念撮影を買って出て景色が最も美しいアングルを探し写真を撮ってくれ、彼らのきめ細やかなサービスにはいたく感動してしまった。
人の心を動かすのはやはり「人」だ。今後、テクノロジーによる価値創造が加速するにつれ、人にしか提供できない血の通ったサービスがより重視されていくことだろう。デジタル化が止まらないこの時代、自分ももっと人間力を磨かなければ。(糸)