「新年」を考える
新年明けましておめでとうございます。私のコラムをお読み下さりどうも有難うございます。今年もよろしくお願い申し上げます。
われわれは年が明けると反射的に「おめでとうございます」と言う。年を越えられたことを祝福し合う。だが、世界を見渡すと、年が明けたことを単純に祝うことはできない側面もある。
1月20日には米国でトランプ氏が大統領に就任した。彼は外国からの全ての輸入品に10~20%の関税をかけると主張している。「欧州諸国が防衛のために十分な支出を行わない」と考えた場合には、彼は米国を北大西洋条約機構(NATO)から脱退させるかもしれない。米国は、二酸化炭素の削減に関するパリ協定からも脱退する可能性がある。
ウクライナの前途も暗い。今この瞬間にも、ウクライナ兵たちが厳しい寒さの中で、最前線の守りについている。砲弾や武器の不足は深刻だ。ロシアは北朝鮮の兵士まで戦闘に投入している。第三次世界大戦を想起させる。
トランプ氏はウクライナ人の頭ごなしに無理やりプーチンと停戦合意をまとめようとするかもしれない。「ウクライナが条件を受け入れない場合には、軍事援助をやめる」と言うかもしれない。その時EU加盟国は、ウクライナを独力で支援できるのか。
欧州諸国は、「ロシアの矛先がウクライナで止まる保証はない」とみている。ドイツでも2025年には徴兵制の準備が始まる。18歳以上の市民は、兵役に就けるかどうかについての政府からの質問票に答えなくてはならない。軍と民間経済は、戦争勃発に備えた計画を策定し、後方支援の準備を進めている。軍が前線に移動する際の燃料、水、食料などは民間企業が供出する。
ドイツ経済が陥った不況のトンネルの出口も見えない。この国の23年の国内総生産の成長率はマイナス0.3%で、G7加盟国の中で最低だった。ショルツ政権は24年の成長率もマイナス0.2%だったと発表した。2年連続のマイナス成長では、「欧州の病人」という汚名を返上することはできない。
ドイツでも他国同様に右派ポピュリズムが強まっている。2月23日には連邦議会選挙が行われるが、極右政党がさらに得票率を増やす可能性が強い。反知性主義の拡大である。隣国オーストリアでは、初めて極右政党に属する首相が誕生する見通しだ。オーストリアに住むユダヤ人や外国人たちは、不安感を抱いている。
26年にわれわれはどのような正月を迎えるのだろうか。私は、いささか不安だ。
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
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