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エルマウ城の秘密(下)

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 バイエルン州南部のホテル・エルマウ城の特徴は、創建当初から室内楽用のコンサートホールがあり、宿泊客が世界的に有名な音楽家たちの演奏を無料で鑑賞できることだ。
 11月28日には、今年ワルシャワでのショパン・コンクールで優勝したブルース・リュー氏(中国系カナダ人)がショパンのピアノ曲「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」を演奏した。11月28日、29日には、ロシア人チェリストのアナスタシア・コべキナさんがショスタコーヴィチとベートーベンの作品で観客を魅了した。コべキナさんが使っているチェロは、1698年にストラディバリウスが製作した貴重品である。
 エルマウ城で催されるコンサートの回数は毎年200回に上る。これほど頻繁にコンサートを催し、宿泊客に無料で音楽を鑑賞させるホテルはドイツでもここだけだ。宿泊料には音楽家へのギャラが含まれているので、市民はここに泊まれば若い芸術家たちを間接的に支援することにもなる。
 また、エルマウ城には、政治、経済、社会に関する書籍を取りそろえた本格的な書店もある。現在は国際情勢を反映して、ロシアやウクライナに関する本が多い。
さらにエルマウ城では、定期的に欧州や米国の学者、作家、ジャーナリストによる講演会も催されている。
 米国やイスラエルの学者らが、ドイツとイスラエルの関係、米独関係などについて討議するシンポジウムも頻繁に行われている。イスラエル関係のシンポジウムが多い背景には、ホテルを1916年に建設したベストセラー作家ヨハネス・ミュラーが1930年代にヒトラーの真意を見抜けず、独裁者を賛美するという失態を演じたことに対する反省もある。1999年にエルマウ城で行われた、第三帝国でワグナーの音楽が演じた役割を批判的に論じたシンポジウムは、ドイツの言論界で大きな議論を巻き起こした。
 コンサートや講演会の開催、書店の存在からは、文化と芸術を支え民主社会を守るという経営者の固い意志が感じられる。
 エルマウ城によると、2002年以降、米国のNGOジャーマン・マーシャル・ファンドがウクライナ、ポーランド、ジョージアなどの首相や大統領らをここに招き、ロシアの脅威にどう対処するかをテーマにした秘密会議を開催した。
 エルマウ城が15年以来、G7サミットの会場に2回も選ばれたのは、このホテルが国際政治や異文化交流の中で大きな役割を果たしてきたからなのだ。
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
筆者ホームページ http://www.tkumagai.de

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