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新ヨーロッパ通信

ドイツ・パン賛歌

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 最近、ドイツに住む日本人の間で、X(旧ツイッター)にドイツの食事について不満を書く人が目立つ。観光客としてドイツに来て、ビアホールに連れていかれてソーセージとジャガイモ、豚肉の料理を食べて「この国の食事はおいしくない」とこぼす人も多い。
 私もドイツの食事のファンではない。だが、この国にもおいしいものはある。例えば、私はドイツのパンは、世界で一番おいしいと思っている。
 この国には、約3000種類ものパンがある。白パンだけではなく、黒パンや、クルミやヒマワリの種などさまざまなものを混ぜたパンがある。
 日本ではなかなか見つからない、おいしいパンがたくさんある。私は34年前から毎朝ドイツのパンを食べているが、全く飽きない。住まないとわからない、ドイツの一面である。
 最近は、おいしいパンを求めて「美味求真」に出掛けるようになった。パンの味は、地方ごとに異なる。同じ町の中でも、店によって味や舌触りが異なる。私にとっては、ミュンヘンの町を歩いておいしいパンを見つけるのが、大きな楽しみになっている。
 例えば、先日、日本で言えば明治屋や紀伊国屋に相当する高級食品店ダルマイヤーで、バゲットの形をした黒パンを買った。このパンは外側がカリカリで、中はしっとりと柔らかく、しかも黒パン独特の香ばしさが口の中に広がる。このパンがおいしかった理由の一つは、鮮度である。その日、または前の日に焼かれたパンは、本当に美味である。
 先日、ミュンヘン北部のシュヴァービングという学生街に行ったところ、店頭でパンをこねて焼いているパン屋を見つけた。ドイツでも工場で作られたパンを売っている店は少なくない。そうした中、店頭でパンを作っている店は大変貴重だ。ここではクルミを混ぜた黒パンを買ったが、期待を裏切らない味だった。
 ドイツのホテルでの朝食も楽しみだ。この国のホテルの朝食は、イタリアやフランスに比べても充実している。そうした中で、時々すごくおいしいパンにぶつかることがある。
 ドイツの食事に不平を言う人は、この国のパンのおいしさを知らない人だ。そもそも私は、食事をできること自体が、本当に幸せなことだと思っている。この地球上には、三度の食事に事欠く人がたくさんいる。戦争のために市民が飢えに苦しむガザの惨状、アフリカで干ばつに悩まされる人々にも、われわれは思いをいたすべきではないだろうか。
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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