ドイツ三党連立政権崩壊の舞台裏
2021年に生まれた社会民主党(SPD)、緑の党、自由民主党(FDP)の連立政権は、わずか3年で崩壊した。左派政党SPD・緑の党と、経済界寄りのFDPの合体は、しょせん無理だった。
昨年11月6日夜、ショルツ首相(SPD)は、リントナー財務大臣(FDP)を更迭した。理由は、ショルツ首相が現在の経済危機を乗り切るために特別の財政措置を求めたが、リントナー大臣が拒否したため。
11月6日夜から連立与党の間で行われた会議でショルツ首相は、財政が逼迫する中、自動車業界の救済やウクライナへの追加支援のために、200億ユーロ(3兆2000億円、1ユーロ=160円換算)の国債を追加発行する方針を打ち出した。
首相は「追加発行は法的に問題ない」と述べた。だが、リントナー大臣は、首相の言葉を信じなかった。その理由は、債務ブレーキという憲法上の規定への例外措置だ。ドイツの憲法(基本法)は、連邦政府に対し国内総生産(GDP)の0.35%を超える財政赤字を禁止している。債務ブレーキは、自然災害など想定外の事態が発生した時だけ連邦議会の承認を経て解除することができる。
リントナー大臣は「ドイツは財政規律を守らなくてはならない。債務ブレーキの枠外で200億ユーロも新たな借金をすることは許されない」として、首相の指示を拒否した。財務大臣が更迭されたので、FDPの他の閣僚たちも政権を離脱した。この結果、ショルツ政権は議会での過半数を失い、独力では法案を可決させることができなくなった。政策遂行能力を失ったレームダックだ。
23年11月に連邦憲法裁判所がショルツ政権の過去の財政措置を違憲とする判決を下して以来、政府は深刻な財源不足に直面している。FDPは、野放図な国債発行によって利払いの負担が増えることに反対している。これに対しSPDと緑の党は「国家にとって必要なプロジェクトについては債務ブレーキを緩和するべきだ」という態度を取ってきた。
ショルツ首相は12月15日に連邦議会で信任投票を実施させ、予想通り議員の半数以上が不信任票を投じた。この結果、25年9月に予定されていた連邦議会選挙が2月23日に前倒しされた。
SPD、緑の党、FDPの連立は今回が初めてだったが、政治路線が異なる政党の連携は難しかった。FDPの支持層は、主に企業経営者だ。「FDPは政権に就くために妥協して、左派政党と結託した」という批判が強まり、同党への支持率はわずか4%に落ち込んでいる。権力の誘惑に溺れると、大失敗につながる。
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
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(本連載は紙面の都合により、3月中は海外面〈7面または9面〉に掲載します)