ドイツで保守派首相が誕生へ
ドイツでは2月23日に連邦議会選挙が行われ、政権交代が実現することになった。保守政党のフリードリヒ・メルツ党首が次期首相となることがほぼ確定した。
この選挙ではキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が28・5%の得票率で首位に立った。メルツ氏は保守本流の政治家。ライバルのアンゲラ・メルケル氏との権力闘争に敗れて2009年にいったん政界を去り、民間経済で働いた(21年に政界復帰)。16年間にわたる臥薪嘗胆の末、首相の座への切符を手にした。
もう一人の勝者は、極右政党・ドイツのための選択肢(AfD)だ。同党は得票率を21年の10・3%から約2倍の20・8%に増やし第2党となった。13年の結党以来、最も高い得票率だ。同党はEUやユーロ圏からの脱退、エネルギー転換の停止などを含む、過激な政策変化を要求している。AfDのテューリンゲン州支部は憲法擁護庁から「民主主義体制の転覆を目指す極右勢力」として監視されている。それにもかかわらず、有権者の5人に1人が同党に票を投じた。AfDは次回の選挙で、CDU・CSUを抜くかもしれない。
これに対し、ショルツ政権に属していた政党は、有権者から厳しく罰せられた。オラーフ・ショルツ首相が率いる社会民主党(SPD)は得票率を前回の選挙に比べて9・3ポイント減らして16・4%と惨敗。結党以来最低の得票率を記録した。
緑の党の得票率も3・2ポイント減って11・6%となった。昨年11月まで連立政権に属していた自由民主党(FDP)の得票率は前回の総選挙に比べてほぼ半減し、4・3%となった。FDPは連邦議会からはじき出されて下野する。
政権交代の理由は、ショルツ政権のCO2削減を優先した政策運営、難民増加や景気対策の欠如に対する、市民の強い不満だ。
ただしCDU・CSUも他党と連立しないと、議席の過半数を取れない。このためSPDと連立する可能性が高い。
メルツ氏にとっての喫緊の課題は、経済の建て直しだ。国際通貨基金の統計によると、同国の23年・24年の実質GDP成長率は2年連続でマイナス。G7加盟国の中で最低だ。同国は、エネルギー費用や人件費の高騰、労働力不足、交通インフラの劣化、デジタル化の遅れなどのために、深刻な景気停滞に襲われている。ドイツの産業用電力価格は米国の2・5倍。商工会議所のアンケートによると、大手企業の51%が「ドイツではエネルギー価格が高すぎるので、生産縮小か工場の国外移転を考えている」と答えた。メルツ氏の道程に難題が山積することだけは間違いない。
(文と絵・熊谷 徹 ミュンヘン在住)
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