南イタリアと車
南イタリア・プーリア州の高速道路は、路面の状態がとても悪い。あちこちに穴や亀裂があり、車が走行中にガタガタ揺れる。まるで高速道路ではなく、未舗装の悪路を走っているかのようだ。
ただしプーリア州では、イタリア北部と違って、高速道路料金を取られない。南部の平均所得は北部よりも低い。高速料金の免除は、住民に対する一種の支援措置だろうか?
しかし料金を徴収しないと、高速道路を補修するための資金が不足して、路面の状態はさらに悪くなる。悪循環だ。
この地方の人々の運転は、概して乱暴だ。高速道路で車線を変更する時に、ウインカーを出す人はほとんどいない。車を追い越すときに、ウインカーを出さずに、車すれすれの所に平気で割り込んでくる。車体のあちこちがへこんだり、傷が付いたりした車を頻繁に見かける。
高速道路の速度制限を守る人もあまりいない。最高速度が90キロに制限されている場所で、150キロくらいで走っている人は珍しくない。「速度をレーダーで監視中」という看板はあちこちで見るのだが、実際に警察官がスピードの取り締まりをやっているのを見たのは1週間で1度だけだった。
高速道路の入り口では、ドイツに比べて助走路が短い。このためいきなり車が走行車線に飛び込んでくることがある。入り口近くでは、十分スピードを落とす必要がある。
先日バリからフォッジアへ向かう高速道路の出口付近で、南イタリアらしい光景を見た。肌も露わな売春婦たちが客を待っていたのだ。彼らは道端に置いた椅子に座っていた。あんな場所で車を停めて春を買う客がいるのだろうか。こういう風景は、アルプス山脈の北側では見たことがない。
イタリアの市街地ではドイツに比べて道が細く、運転に神経を使う。駐車禁止の場所に車を平気で停める人も多い。私がレッチェで駐車していたガレージの入り口の向かい側に、誰かが車を違法駐車していたので、ガレージに車を入れる時に何度も切り返しを行わなくてはならず、神経をすり減らした。
レッチェからバリへ車で戻る時、高速道路の長い渋滞にぶつかった。乗用車がトラックに追突されてぺしゃんこになっていた。十分な車間距離を取っていなかったのか。トラックの運転手がスマホを使っていたのか。イタリアで車に乗ると、どうすれば身を守る運転をできるか(いわゆる防御型運転法)の訓練ができる。どういう状況になっても焦らず、あわてないための精神の鍛練にもなるのだ。
(文と絵・熊谷 徹 ミュンヘン在住)
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