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優美な石灰岩の町・レッチェ

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 ミュンヘンから飛行機で南に約2時間。バリ空港で車を借りて、さらに南へ3時間走る。イタリア南部の古都レッチェは、ベニスやフィレンツェほど知られていないが、歴史の重みを感じさせてくれる町だ。
 レッチェの起源は紀元前12世紀までさかのぼる。古代ローマ人たちもここに足跡を残している。喫茶店や銀行などが立ち並ぶ町の中心部に、古代ローマの円形劇場の跡が残っている。約5000人の観客を収容できる劇場は、紀元1~2世紀に建設されたものと推定されている。商店街の歩道には、古代ローマ時代の石畳の一部が保存されていた。
 レッチェの黄金時代は、16世紀から17世紀である。この時代には、市内のあちこちに壮麗な教会が次々に建設された。その代表が旧市街にあるサンタ・クローチェ教会である。無数の天使の顔や花びらなどの精緻な浮彫り、人物や動物の彫像が教会前面の壁を埋め尽くしている。天使の顔は一つ一つ違う。午後3時から4時には、夕日がこの教会の壁を照らし、浮き彫りに独特の陰影を与える。1646年に完成したこの教会は、レッチェを彩るバロック建築物の代表作である。
 レッチェでは、この教会の他、ドゥオモ(大聖堂)やサンタ・マテオ教会など多くのバロック建築物の前面の装飾に、ベージュ色の石が使われていることに気付く。これはレッチェ付近で産出される特別な石灰岩で、細かい加工や造形を行うのに適している。町を彩るバロック建築の独特な雰囲気は、ベージュ色のこの石材なしには考えられない。あらゆる場所にこの石が使われているので、町がベージュ色のトーンで包まれ、暖かい印象を与える。レッチェの町全体が芸術品である。
 レッチェでは、他のイタリアの町と同じく、チェントロ・ストリコ(歴史的中心地区)と呼ばれる地域がある。この地域は中世のレッチェに該当し、原則として車は通行できない。城壁は取り壊されているが、今でも三つの城門がそびえている。これらの城門の屋根にも、レッチェ石で作られた聖人の彫像が設置され、人々を見下ろしている。冬のイタリアでは観光客が少なく、中世の町の雰囲気をじっくりと味わうことができる。
 日本文化が木や紙の文化であるとすると、イタリアの文化は石の文化だ。石の文化は、500年~600年前の人々の営みと情熱、美への探求心を今日まで伝える一種のタイムマシーンでもある。優美な石の町レッチェは、イタリア文化の厚みと奥深さを感じるには絶好の土地である。
 (文と絵・熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウント https://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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