独 再建計画「アゲンダ2030」発表
2月23日にはドイツで連邦議会選挙が行われ、政権交代が実現することになった。選挙で首位に立ち、勝利を手にしたキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)のフリードリヒ・メルツ首相候補は、今年1月10日、「アゲンダ2030」と名付けた経済改革プログラムを発表していた。
今回の選挙の最大の争点の一つは、経済の建て直しと企業の競争力の強化だった。メルツ党首は、「この改革プログラムによって、わが国のGDP成長率を少なくとも年率2%に引き上げる」と約束した。2022年のロシアのウクライナ侵攻以来、ドイツは景気後退に苦しんでいる。23年と24年の実質GDPは、2年連続でマイナス成長だった。
メルツ氏は社会保険料や税金などの企業への負担を減らすことで、競争力・収益力を回復させることを目指す。たとえば税制改革によって、企業収益に課されるさまざまな税金の負担を現在の約30%から25%に減らす。経済協力開発機構(OECD)によると、ドイツ企業の収益への課税率は29.93%で、欧州で最も高い国の一つだ。
さらに残業代にかかる税金を免除する他、公的年金の支給を受け始めた市民が再び就業する場合、給料については毎月2000ユーロ(32万円、1ユーロ=160円換算)まで無税とする。働く意欲を高めるためだ。
また所得税の最高税率(42%)が適用される所得額を、現在の6万8480ユーロ(1096万円)から、8万ユーロ(1280万円)に引き上げる。
社会保険にもメスを入れる。CDUは、「現在公的健康保険や年金保険などの社会保険の保険料率は、子どもがいる市民で41.9%、子どもがいない市民で42.5%だが、われわれはこの水準を40%に減らす」としている。
近年ドイツの公的年金の支給額は、平均賃金の上昇に比例して毎年引き上げられている。だがメルツ党首は、将来の公的年金の上昇率を現在よりも低くするという方針を明らかにしている。
労働時間についての制限も緩和する。ドイツ企業では、労働時間法という法律によって、1日当たり10時間を超えて働くことは禁止されている。CDUは、労働時間規制を1日当たりではなく、1週間当たりに変更することによって、労働時間をフレキシブルにする方針を明らかにした。ドイツ企業の労務担当者にとっては朗報である。
低成長率のゆえに、「欧州の病人」と呼ばれるドイツは、この改革を断行することで、汚名をはらすことができるだろうか。メルツ氏の舵取りが注目される。
(文と絵・熊谷 徹 ミュンヘン在住)
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