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トランプ2.0にどう対抗するか(上)

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 1月20日、ドナルド・トランプ氏が2度目のホワイトハウス入りを果たした。欧州各国の間では、「トランプ2.0は、トランプ1.0よりも手ごわい」という見方が有力だ。トランプ大統領は、行政機関、議会、共和党内での支配体制を強めた他、1期目の経験から多くを学んでいるからだ。
 早くも、グリーンランドやカナダの米国への編入、パナマ運河の所有権取得、メキシコ湾のアメリカ湾への改名など突飛な発言を行っている。
 EUの最大の懸念は、関税だ。トランプ氏は大統領就任直後、2月1日以降、カナダとメキシコからの輸入品に25%、中国からの輸入品に10%の追加関税を課すと発言したが、対EU関税には言及しなかった。ただし彼は「欧州は、莫大な貿易黒字を重ねており、たちが悪い」と述べており、EUへの追加関税の導入は時間の問題と見られている。
 EU統計局によると、EUの米国に対する貿易黒字は、2013年の813億ユーロ(13兆80億円・1ユーロ=160円換算)から94.2%増えて、23年には1579億ユーロ(25兆2640億円)となった。
 EU加盟国の中で、米国に対する財の貿易黒字が最も多いのがドイツだ。23年のドイツの対米貿易黒字は858億ユーロ(13兆7280億円)で、EUの対米貿易黒字の約54%を占める。ドイツの自動車や医薬品の米国への輸出額が多いからだ。
 自動車業界・医薬品業界はドイツの製造業界で最も重要な業種。トランプ政権が追加関税を課した場合の影響は甚大だ。米国のピーターソン国際経済研究所のキルケゴール研究員は、「トランプ政権がEUからの輸入品に対して10~20%の追加関税を課した場合、米国のドイツからの自動車の輸入台数は32%、ドイツの医薬品の輸入量は35%減る」と予想している。
 EUは、「トランプ大統領は、イデオロギーで動く人物ではない。彼はディール(取引)を重視する」と分析している。EUは、ディールをまとめるために天然ガスを使うだろう。EUは天然ガスの輸入を増やす必要に迫られている。米国が今後天然ガスの生産・輸出量を増やせば、世界市場での天然ガス価格は現在よりも低くなる。つまりEUにとっては、米国からの天然ガスを増やすことには経済的にも意味がある。
 実際欧州委員会のフォンデアライエン氏は、トランプ氏の心をくすぐるかのように、「米国のLNGは、比較的安い。したがってわれわれは輸入量を増やすのにやぶさかではない」と発言している。EUはトランプ氏とディールをまとめて貿易戦争を回避することに成功するだろうか?(つづく)
 (文と絵・熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウント https://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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