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新ヨーロッパ通信

お役所という迷宮

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 ドイツの役所の規則の複雑さは想像を絶する。会社員シュミットさん(仮名)は、1990年から2000年までA社で働き、2000年からはB社で働いている。A社で働いている時に、会社の勧めで給料の一部を受け取らずに、会社がその金で個人年金保険を買った。25年1月に保険が満期になって保険金が支払われた。
 ところが今年2月、B社から「あなたの税金クラスは3なのに、税務署からの連絡で6になった。他の会社で同時に働いているのか」と聞かれた。ドイツでは納税者番号の他に、税金クラスがある。給与明細に書かれた「3」は雇用者がメインの雇用者であること、「6」は雇用者が副雇用者であることを示す。
 問い合わせの結果、以前の雇用者A社が保険金支払いを税務署に通知する際に、誤って自分を「3」、つまりメインの雇用者と記入したことがわかった。これではシュミットさんが一度辞めた会社に再就職したことになってしまう。
 A社の経理担当者は、シュミットさんに「B社に、あなたの税金クラスを3に変えるように言ってほしい」と言った。シュミットさんがB社に問い合わせたところ、「われわれには税金クラスを変える権限はないので、税務署に頼んでほしい」という答えだった。シュミットさんが税務署と話したところ、「われわれは税金クラスを変えることはできない。給料を払う会社がITシステムを通じて税金クラスを変えるしかない」と言われた。たらい回しである。
 仕方なくシュミットさんはA社に対して、「あなたの会社を6に設定して、もう一度保険金の支払いをITシステムを通じて税務署に連絡してほしい。そうすれば、メインの雇用者であるB社のITシステムでの私の税金クラスは3になるはずだ」とメールと手紙で要請した。A社から返事は来ていない。
 シュミットさんは、なぜ税務署が彼の税金クラスを修正できないのか理解できなかった。税務署が「シュミットさんのメインの雇用者はA社だから、A社のITシステムでは彼の税金クラスは3、B社での税金クラスは6」という形で切り替えれば済む話ではないか。
 シュミットさんは、二つの企業と税務署と話し合っているうちに、カフカの小説『城』の主人公のように、巨大な建物の中を堂々めぐりさせられ、随分歩いたと思っても出発地に帰ってきてしまう運命に陥ったような錯覚を持った。
 ドイツ企業が競争力を回復するには、こういう非生産的なビューロクラシー(官僚主義)をなくすことも重要だ。
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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