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ミュンヘンでも無差別殺傷テロ

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 ドイツでは昨年から難民が市民を無差別に殺傷する事件が相次いでいるが、私が住むミュンヘンでも、テロが発生した。
 2月13日午前、ミュンヘン中央駅北西の道路で、サービス業労働組合の組合員たちがデモを行っていた。その隊列に、軽乗用車が突っ込んだ。2歳の幼児と母親が死亡した他、37人が重軽傷を負った。母親はアルジェリア系のドイツ人エンジニアだった。路上には幼児が乗っていた乳母車の残骸や、組合員の衣服が散乱していた。
 犯人は警察官に取り押さえられる際に、「アラー・アクバル(神は偉大なり)」と叫んだ。この男は24歳のアフガニスタンからの難民だった。2016年にドイツに入国した後、21年に滞在許可を取得し警備会社で働いていた。ただし、この男はSNSに過激な内容の書き込みをしており、検察庁はイスラム過激派の影響を受けたテロ事件とみて捜査している。
 ドイツでは昨年以来、難民による無差別殺傷事件が5回起きた。昨年5月には、マンハイムでアフガニスタンからの難民が警察官1人をナイフで殺害し、5人に重傷を負わせた。8月にはゾーリンゲンの市民祭でシリア難民がナイフで通行人3人を殺害し、8人が重軽傷を負った。
 12月にはマクデブルグで、サウジアラビア人の難民が、車をクリスマス市場に突っ込ませた。子どもを含む6人が死亡し、約300人が重軽傷を負った。
 今年1月にはアシャッフェンブルクで、アフガニスタン人の難民が2歳の幼児と41歳の通行人をナイフで殺害し、3人に重傷を負わせた。私はドイツに35年間住んでいるが、難民による無差別殺傷事件がこれほど頻発したことは一度もない。
 私は1990年にミュンヘンに来てから数年間、現場近くのアパートに住んでいた。よく知っている場所がテロの現場になるのは、奇妙な感覚だ。現場近くの歩道には、市民たちが犠牲者に捧げた花束やろうそくを入れた赤い容器、子ども用の玩具などがうず高く積み上げられている。通行人たちが、花束を置いては去っていく。花束の山の前に呆然と立ちすくむ人もいた。
 ミュンヘンは、ドイツで外国人の社会への統合、融和が最も進んだ町の一つである。市民の約48%が外国人、またはドイツに帰化した外国人だ。いわば「外国人受け入れのモデル都市」で起きた犯行は、市民に強い衝撃を与えた。現場付近の路上には、「過激勢力によって社会が分断されるのを防ごう。今こそ連帯が必要だ」というプラカードがあった。私も同感である。
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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