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【新ヨーロッパ通信】ウクライナ停戦交渉・欧州は蚊帳の外(6)
トランプ政権は交渉が始まる前から、ウクライナ政府が求めていた、北大西洋条約機構(NATO)加盟、2014年以前の国境の回復、停戦監視軍への米軍の参加という重要な3条件を拒否した。つまり、ロシア側が求める条件で交渉を進めようとしている。しかもトランプ政権は交渉が始まる前に、米国が想定する停戦の条件を公表した。持ち駒を見せることでウクライナの立場を弱め、ロシアの立場を強化する行為だ。
これは、ウクライナとEUにとって最悪のシナリオだ。欧州の政治家たちの間では、「トランプ大統領とプーチン大統領が2国間でウクライナ停戦の条件を決めて、ゼレンスキー政権とEUに押しつけようとしているのではないか」という懸念が強まっている。
トランプ氏の発言には、ロシア寄りの姿勢が感じられる。彼は2月に「ウクライナのNATO加盟は非現実的だ」と述べるとともに、「今回の交渉で戦争を終結させられるチャンスがある。プーチン大統領は信頼できる」と語った。トランプ氏は、「14年に主要7カ国が当時のG8からロシアを除名したことは誤りだった。ロシアを復帰させるべきだ」とも述べた。
トランプ氏は、「ウクライナはこの戦争を始めるべきではなかった。もっと早く交渉すべきだった」と述べ、ウクライナ側に戦争の責任があるかのような口ぶりを見せた(実際には、ウクライナは22年2月にロシアに侵略された被害国である)。彼は「ウクライナは、いつの日かロシアの一部になるかもしれない」とも述べた。
トランプ氏は選挙期間中に、「私が大統領になれば、1日でウクライナ戦争を終わらせることができる」と豪語した。同氏の発言からは、彼が短期間に戦争を終わらせることだけに関心を持っており、ウクライナの主権を守ることや、ロシアの抑止については関心が低いことがうかがわれる。
さらに彼の言動からは、「欧州への関与を減らす」という姿勢がはっきり読み取れる。ヘグセス国防長官は、NATOでの会議での演説の中で「今後われわれは中国への対応に重点を置く。ウクライナや欧州には、高い優先順位を与えない」と述べている。さすがの米国も、ウクライナとアジアでの二正面作戦を遂行する事態は避けたい。このため、米国のプライオリティーは、欧州からアジアに移る。トランプ氏やヘグセス氏の言動には、欧州の安全保障へのコミットメントを減らして、リソースをアジアに集中しようとする米国のグローバル戦略が透けて見える。
(つづく)
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
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