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新ヨーロッパ通信

【新ヨーロッパ通信】PFAS禁止をめぐる議論

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 いま欧州では、有機フッ化化合物PFASの禁止について議論が行われている。PFASはペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物の略で、1940年代に開発された。約1万種類に及ぶPFASは、テフロンを使ったフライパンから化粧品、電気自動車のリチウムイオン電池から半導体に至るまで、さまざまな製品に使われている。
 今年1月14日、ドイツの日刊紙・南ドイツ新聞や、北ドイツ放送、フランスの日刊紙ルモンドなどの46人のジャーナリストたちは、PFASに関する調査報道の結果を公表した。この報告によると、欧州31カ国で今後20年間にPFASによる汚染除去にかかる費用は、2兆ユーロ(320兆円、1ユーロ=160円換算、以下同じ)に達する。ドイツだけでも毎年8億ユーロ(1280億円)の除去費用が必要になる。
 世界保健機関(WHO)は、約1万種類のPFASの一部に発がん性があると指摘している。このためデンマーク、ドイツ、オランダ、ノルウェー、スウェーデン政府は2023年に欧州委員会に対して、PFASの使用禁止を求めるという意見書を提出した。
 欧州委員会で環境保護を担当するロスウォール委員は1月20日、ロイター通信に対し「産業界が必要とする製品を除き、消費者が使う製品についてはPFASの使用を禁止する方針だ」と語っている。
 産業界はPFASの全面禁止に反対している。ドイツ自動車工業連合会(VDA)、ドイツ機械工業会(VDMA)、ドイツ電子工業会(ZVEI)は23年8月、「PFASを禁止した場合、エネルギー転換に必要な風力発電設備、太陽光発電設備、電気自動車の生産に支障が生じる。人体への影響が少なく、代替物質がない場合には、PFASの使用を禁止するべきではない」とする声明を発表した。VDAなどによると、BEVのリチウムイオン電池や水素関連の設備にもPFASが使われている。
 ドイツの電力業界も、「PFASを完全に禁止すると、再エネ拡大にブレーキがかかる。欧州委員会は現実的・慎重な対応をとってほしい」と述べている。
 PFASに関する調査報道を行ったメディアは、「化学業界など産業界が欧州委員会に激しいロビイング攻勢をかけている。このため、欧州委員会およびEU加盟国の経済大臣らは、PFASの全面的な規制に消極的な姿勢を取っている」と指摘した。
 日本でも、米軍基地の周辺の地域などで水道水から検出されるPFASについて、市民の間で懸念が深まっている。
 産業界の懸念も理解できるが、各国政府は、PFAS問題では市民の健康と環境を守ることを最優先にしてもらいたい。
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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