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ドイツでポピュリストに票が集まる理由(上)
第二次世界大戦後にドイツは、政府、経済界、社会が一丸となってナチスの犯罪について謝罪、反省し、若い世代に歴史教育を通じて伝えてきた。こうした努力にもかかわらず、今ドイツで極右政党ドイツのための選択肢(AfD)の得票率・支持率が高まっているのは、大きな謎である。
私がこの国に34年間住んだ経験も踏まえて、その理由を考えてみた。ナチスの時代について寛容で、排外主義を主張するAfDは、第二次世界大戦後のドイツで主流だった「外国人や異文化に寛容な姿勢」に反対する勢力である。AfDは米国のトランプ氏の真似をして「ドイツ第一」を掲げ、外国人を見下す。AfDが主張していることは、歴代のドイツの政権、この国の主流派の伝統の真逆である。
AfDは、これまでドイツで常識とされてきた、EU重視、再生可能エネルギー拡大、多文化主義、リベラリズムを否定する。つまり、AfDを支持している市民は、コール政権、シュレーダー政権、メルケル政権、ショルツ政権の路線に反対する人々だ。彼らは社会の主流派に対して抗議するために、ドイツの「常識」に挑戦し覆そうとするAfDに票を投じる。
つまり、AfDの躍進は、ドイツの戦後の常識に対する、人々の抗議と反逆姿勢の表れなのだ。これらの人々は、AfDの幹部がナチスの犯罪を矮小化するような発言をしても、気にしない。現政権、そしてドイツの常識に対する反発心が、それほど強いのだ。
東西格差も影響している。2025年1月に公表されたあるアンケート調査によると、AfDへの旧東ドイツでの支持率は28.4%で、旧西ドイツ(13.8%)を大きく上回っている。
その理由は、旧東ドイツでは「自分たちは1990年の東西ドイツ統一以来、貧乏くじを引かされた」として、旧西ドイツ人が主導権を持つ現政権に対して反感を抱く人が多いからだ。
例えば、旧東ドイツ人の公的年金は、約30年間にわたって西側よりも低く抑えられてきた。同額になったのは24年7月のことだ。旧東ドイツ出身の公務員の給与は、今でも旧西ドイツ出身の公務員よりも低く抑えられている。旧東ドイツには、ドイツの大手企業の本社は1社もない。旧東ドイツの大学の教授の大半は、旧西ドイツ出身者が占めている。このため、旧東ドイツ人の中には、西側に対する抗議の手段として、AfDに票を入れる者が少なくない。昨年9月に旧東ドイツのテューリンゲン州で行われた州議会選挙では、AfDが有権者のほぼ3人に1人の票を確保し、初めて首位に立った。
(つづく)
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92