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【新ヨーロッパ通信】ドイツでポピュリストに票が集まる理由(下)
ナチスドイツの犯罪について反省し、若者たちに詳しく教えてきたドイツ。その努力を踏みにじるかのように、いま極右政党・ドイツのための選択肢(AfD)の得票率が高まっている。
その理由の一つは、ソーシャルメディア(SNS)による偽情報の拡散だ。AfDは、ドイツの政党の中でSNSを最も重視する政党だ。その情報はツイッター(現X)、フェイスブックだけではなく、ティックトックなどでも大量に流された。その一方で、新聞やニュース、雑誌、公共放送局を通じてニュースに接する人の比率が減っている。ニュースをネットでしか読まない市民の比率が急激に増えている。
AfDを支援している米国の富豪イーロン・マスク氏のXには、ナチスの栄光を賛美するかのような動画がノーチェックで流されている。マスク氏など米国のテック富豪は、「表現の自由を守る」として、SNSで流れている内容が偽情報かどうかのチェックを行っていない。
新聞社の記事や放送局が流すニュースでは、デスク、つまり編集者が記者の原稿をチェックしてから公表する。編集者の目を通さずに、ニュースが流れることはない。疑問点があれば、デスクは記者に問い合わせる。
これに対して、SNSが流す情報は、デスクなど第三者によるチェック作業、事実確認を全く経ずに、ネット空間に公表される。したがって、右派ポピュリスト政党が流す嘘情報も全くチェックされないまま、拡散していく。イーロン・マスク氏は、「大新聞や放送局の検閲を受けないSNSこそ、真の市民メディアだ」と称賛している。しかし、第三者のチェックを受けないSNSの情報には、真実だけではなく嘘情報も紛れ込んでいる。
情報に含まれている真実と嘘を見分ける能力を、メディア・リテラシーと呼ぶ。メディア・リテラシーが低い若者や子どもたちが、SNSに発表された嘘を、真実と誤認する危険性は高い。2023年に公表されたアンケート結果によると、ドイツ人の回答者のうち21%が、「ユダヤ人は世界で影響力を持ち過ぎている」など反ユダヤ主義的な見解に賛意を表した。
米国、イタリア、ハンガリー、オーストリア、フランスなどで右派ポピュリストの政治家が高い支持率を確保した一因は、SNSによる嘘情報を多くの人が信じたことだ。そのことは、残念ながらドイツについてもあてはまる。嘘情報が、人々の考え方や投票行動を左右する。過去についての歴史教育は、人々の心を嘘情報から守る防波堤にはならなかったのだ。
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92