Advertisement Advertisement

コンテンツ

新ヨーロッパ通信

【新ヨーロッパ通信】欧米間の文明の衝突(2)

SHARE

 米国のJ・D・ヴァンス副大統領は2月14日、ミュンヘン安全保障会議での演説で、「欧州には民主主義が不足している」と批判した。ホテル・バイリッシャー・ホーフの大ホールでは、空気が凍ったかのようだった。聴衆からは、ヴァンス氏の演説に対する拍手はほとんど聞かれなかった。むしろ聴衆は、反感を表わした。例えば、ドイツのべーアボック外務大臣(当時)は、ヴァンス氏の言葉を聞いて、呆れたように首を振った。これは欧米では、相手のコメントに反発していることを示すジェスチャーだ。バイエルン州のゼーダー首相(キリスト教社会同盟)の口からは失笑が漏れた。
 ヴァンス氏は、この演説の前に行ったウォールストリート・ジャーナル紙の記者とのインタビューで、当時各党が選挙戦を行っていたドイツ連邦議会選挙にも介入するような発言を行った。同氏は「欧州の市民が一番望んでいるのは、難民の規制だ。しかし、欧州諸国の政府は国民の声を無視して、難民規制を求める政党を差別している。ドイツの政党は、ドイツのための選択肢(AfD)と協力するべきだ」と語った。ドイツの社会民主党(SPD)や緑の党は、「亡命申請権は憲法で保障されており、国境で追い返すなどの行為は、憲法やEU法に違反する」と主張している。
 AfDは、ドイツのEUからの脱退や難民規制の強化、ロシアとの関係改善などを求める極右政党で、一部の幹部は連邦内務省の憲法擁護庁から、「極右勢力」として監視されている。トランプ氏の側近イーロン・マスク氏はAfDを強力に応援している。マスク氏は、彼が所有するプラットフォームXで、「ドイツを救えるのはAfDだけだ。ショルツ首相(当時)は愚鈍であり、シュタインマイヤー大統領(当時)は暴君だ」と述べている。外国の首相や大統領に対する敬意のかけらもない。
 ヴァンス氏はジョークのつもりで、「皆さんはグレタ・トゥンベリのお説教を10年間にわたって我慢したのだから、イーロン・マスクの言い分を数カ月聞いてもいいのではないか」と言ったが、聴衆からは笑い声は聞かれなかった。グレタ・トゥンベリ氏は、二酸化炭素の排出量の大幅削減を求めて世界的なキャンペーンを行ったスウェーデンの環境活動家で、ヴァンス氏らトランプ支持者が最も嫌う人物の一人だ。
 キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)やSPDなどの伝統的な政党は、AfDとの連立や協力を禁止している。ヴァンス氏は、「これは自由の抑圧だ」と批判した。
 (つづく)
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

SHARE