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新ヨーロッパ通信

【新ヨーロッパ通信】ドイツ総選挙と分断(上)

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 今年2月23日のドイツ連邦議会選挙が浮き彫りにしたもの、それは社会の分断だった。この選挙で、ドイツ人たちは政治の変革を強く望んだ。そのことは、1990年のドイツ統一以来最高の82.5%という投票率にはっきり表われている。選挙前のドイツで市民と話すと、ショルツ氏が率いた三党連立政権への失望感が強く、「政治を変えなくては」という危機感が漲(みなぎ)っていた。
 有権者はショルツ政権に属していた三党を厳しく罰した。ショルツ氏が属する社会民主党(SPD)の得票率は、前回の選挙に比べて9.3ポイント減った。SPDの16.4%という得票率は、結党以来最低だ。緑の党の得票率も3.1ポイント減少。自由民主党(FDP)の得票率は前回比で半減した。
 与党の惨敗にもかかわらずCDU・CSUは「圧勝」できなかった。CDU・CSUのメルツ氏は、「30%を超える得票率を確保する」という目標を打ち出していたが、目標の達成に失敗した。世論調査では、去年11月のCDU・CSUへの支持率は37%だった。だが今年2月の開票結果は、8.5ポイントも低い28.5%だった。
 CDU・CSUが圧勝できなかった理由は、多くの有権者がCDU・CSU以外の「選択肢」を見いだしたからだ。今回の選挙で得票率を最も大きく伸ばしたのは、極右政党・ドイツのための選択肢(AfD)だった。同党は得票率を前回の選挙に比べて約2倍に増やして、20.8%を記録した。2013年の結党以来の最高値だ。AfDはEUやユーロ圏脱退、ロシアからの天然ガス輸入再開を要求している。
 幹部の中には、ナチスドイツの犯罪を矮小化する発言を行っている者もいる。AfDのテューリンゲン州支部は憲法擁護庁から「極右団体」として監視されている。それにもかかわらず、有権者の5人に1人がこの党を選んだ。日刊紙フランクフルター・アルゲマイネは、「前回の選挙で投票しなかった市民約180万人がAfDを選んだ」と分析している。世論調査機関インフラテスト・ディマップの調査によると、21年の総選挙では18歳から24歳の有権者の内、AfDを選んだのは7%だった。ところが今回の選挙では、AfDを選んだ若年層の比率が、一挙に3倍に増えて21%となった。
 AfDは旧東ドイツで首位に立った。各選挙区で最も多い票を得た候補者の党によって、ドイツの地図を色分けすると、旧東ドイツはほぼ完全にAfDのシンボルカラーの「青」に染まった。これに対し西側は、CDU・CSUの「黒」で埋まった。
 この地図は、東西ドイツを隔てる石の壁はなくなったが、心の中の壁が残っていることをはっきりと示した。
(つづく)
(文と絵・熊谷 徹 ミュンヘン在住)
筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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