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新ヨーロッパ通信

【新ヨーロッパ通信】踏みにじられる国際法

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 「国際法は形骸(けいがい)化した」と言われて久しいが、今回の米国のイラン攻撃は、いわば国際法・形骸化のダメ押しである。本来は世界に模範を示すべき超大国が自国の都合で、堂々と国際法を破る時代になった。
 国連憲章は、加盟国に対して他の国に対して軍事攻撃を行うこと、つまり攻撃的戦争を禁じている。唯一反撃を許されているのは、外国から攻撃された時、または外国からの攻撃が迫っていると判断される時の自衛戦争だけである。
 イランについては、イスラエルだけではなく欧米諸国も、1990年代から核兵器を密かに開発しているという疑いを抱いていた。西側の諜報機関は、「イランがウランの濃縮度を、核兵器に使える90%に引き上げるのは時間の問題だ」と見ていた。
 米国のオバマ政権は、英仏独、ロシア、中国とともに2015年にイランとの間で核合意を結び、イランに対する経済制裁を減らすことと引き換えに、イランの核開発にブレーキをかけようとした。ただしイスラエルのネタニヤフ首相は、「イランは核合意を利用して時間を稼ぎ、裏で核兵器を開発しようとする」として、核合意に反対した。親イスラエル派のトランプ大統領は、18年に核合意から脱退した。
 イスラエルはイランから直接攻撃される兆候がなかったにもかかわらず、6月13日にイランを攻撃し、米国も8日後にイランを攻撃した。両国とも、「イランが近く核兵器を完成させる」という推測だけに基づいて、同国を攻撃した。しかしイランからの攻撃が目前に迫っているという兆候はなかった。これらの攻撃は国際法が禁じる「攻撃的戦争」である。
 この種の戦争は過去にも起きている。1999年に北大西洋条約機構(NATO)はコソボのセルビア系武装勢力や、セルビアを空爆した。また米国は2003年に、「イラクが大量破壊兵器を保有している」という理由でイラクに侵攻し、指導者サダム・フセインを失脚させた。この二つの戦争は、いずれも国際法違反だ。
 フランクフルト大学で国際関係論を教えるダイテルホフ教授は、「米国のような国が堂々と国際法を無視する状態は、極めて危険だ。いま国際法は深刻な危機にさらされている。将来は国際法を守る国がなくなるかもしれない」と悲観的な見解を述べた。
 われわれはルールに基づく世界ではなく、強大な軍事力を持つ国が自分の都合を押し通す、弱肉強食の世界で生きている。交渉よりも武力行使が優先される。将来も、他国を軍事力で屈服させようとする国が現れるだろう。
 (文と絵・熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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