Advertisement Advertisement

コンテンツ

新ヨーロッパ通信

【新ヨーロッパ通信】中国の希土輸出規制が欧米に衝撃

SHARE

 欧州や米国にとって、中国はライバルである。だが、彼らは貿易面で中国に大きく依存している。一例を挙げよう。
 中国政府は4月4日にテルビウム、スカンジウム、ジスプロシウムなど7種類の希土と、これらを使った永久磁石などについて、輸出管理を強化した。輸出許可の取得に時間がかかるようになり、輸出速度は大幅に遅くなった。
 中国の希土輸出規制は世界中の製造業界を震撼させた。中国は希土の約半分をミャンマーで採掘しているが、希土の精錬・加工ではほぼ独占的な立場にある。中国からの希土や永久磁石は、兵器、電気自動車、産業用ロボット、携帯電話、ドローン、風力発電設備、AI関連機器、医療機器などの製造に欠かすことができない。欧州委員会が2023年に公表した「EUのための重要原材料に関する報告書」によると、今回中国が輸出を規制した7種類の希土のうち、スカンジウムとサマリウムを除けば、中国が世界の需要量の100%を供給している。EUの対中依存度も、スカンジウムとサマリウムを除けば100%だ。
 ドイツ産業連盟(BDI)のニーダーマルク専務理事は、「中国政府が輸出規制を続けた場合、製造業界のあらゆる部門で生産停止などの事態が起きる可能性がある。これは『金属危機』と呼ぶべき事態であり、22年にロシアがパイプラインを通じた天然ガス供給を止めた時に発生したエネルギー危機に匹敵する」と警告した。
 中国の希土輸出規制は、元々米国の関税政策に対する報復措置だった。米国のドナルド・トランプ政権は4月2日に、中国から輸入される全製品に合計54%の関税を課すと発表した。中国は対抗措置として、希土の輸出規制を開始した。
 中国の希土輸出規制は、米国にとって痛打だった。中国が規制した希土と永久磁石は米国の防衛産業などにとっても不可欠だったからだ。
 6月5日にはトランプ大統領と中国の習近平国家主席が90分にわたり電話会談を行い、貿易紛争のエスカレーションを避けるために、交渉再開について合意した。米国は中国から希土の供給を受け、米国は中国へのAI向け半導体などの輸出規制を緩めた。
 これに懲りた米国は自国内での希土採掘努力を強化する方針。EUは自動車などに使われている永久磁石のリサイクル義務を強化することにしている。
 だが、欧米の、希土の自給率を高めるための努力はまだ始まったばかりだ。今後も欧米と中国の関係が悪化した場合、中国は「希土カード」を使って、欧米に圧力をかけるに違いない。
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

SHARE