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新ヨーロッパ通信

【新ヨーロッパ通信】ドイツが初の「対イスラエル制裁措置」

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 ドイツのメルツ首相は8月8日、「イスラエル軍がガザ地区で使用する可能性がある軍事物資の供与を停止する」と発表した。これはイスラエルのネタニヤフ首相が、ガザ地区での軍事行動をさらに拡大し、ガザ市全体を占領する方針を明らかにしたことに対する抗議である。ドイツ政府がイスラエルに対して、部分的とはいえ制裁措置を発動したのは初めてのことだ。その意味でこの決定は、ドイツとイスラエルの関係史の大きな分岐点といえる。
 2023年10月7日にハマスはイスラエルを襲って約1200人を殺害し、約250人を誘拐してガザ地区に監禁した。同地区ではまだ20人のイスラエル人がハマスによって監禁されている。一方、ガザ健康省によると、イスラエル軍のガザ地区に対する攻撃によって、今年7月30日までにパレスチナ人約6万3000人が殺害された。そのうちの約30%が子どもである。また、イスラエル軍が国連などの支援物資の搬入を制限しているため、多くのパレスチナ人が飢餓に苦しんでいる。
 メルツ首相は、イスラエルへの軍事物資の供与を部分的に停止する理由について、「イスラエルには自衛の権利がある。さらにハマスが監禁している人質を救出するための努力をする権利がある。しかし、この時点でガザ地区での軍事行動をさらに拡大し、ガザ市全体を占領しようとすることの目的や意味が、われわれには理解できない」と説明している。
 ドイツ政府はイスラエルに戦車や大砲は供与していない。しかし、23年には兵器の交換部品や戦車のための砲弾、銃弾など約3億ユーロ(510億円、1ユーロ=170円換算、以下同じ)相当を供与した。24年の供与額は1億6000万ユーロ(272億円)だった。
 ネタニヤフ首相は今回の停止措置について、「ハマスを利する行為だ」と反発。また、メルツ氏が属するキリスト教民主同盟(CDU)からも、「ドイツの歴代政権は、ナチスがユダヤ人に対しておかした犯罪に対する反省から、『イスラエルの安全を守ることは、ドイツの国是の一部だ』と主張してきた。メルツ氏の決定は、この路線から外れるものだ」という批判が出ている。
 ただし、欧州では、ガザ地区での惨状を見て、イスラエル政府に対する批判が高まっている。フランスのマクロン大統領は7月25日に、「わが国は今年9月の国連総会でパレスチナ国家を承認する」と発言した。英国政府も同様の方針を打ち出している。
 今後ドイツに対しては、イスラエルとの協力関係をさらに減らすべきだという圧力が強まるに違いない。
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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