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【新ヨーロッパ通信】ドイツEV復活の兆し
 欧州では、BEV(電池だけを使う電気自動車)の販売台数が回復傾向を見せている。欧州自動車工業会(ACEA)は7月24日、「今年上半期のEU域内でのBEVの新車登録台数が前年同期の71万2451台から22%増えて86万9271台になった」と発表した。EUでの新車登録台数にBEVが占める比率は、昨年の上半期には12・5%だったが、今年の上半期には15・6%に3・1ポイント増えた。
 欧州でBEVの販売台数が最も多い国はドイツだ。この国では、今年上半期のBEVの新車登録台数が、前年同期に比べて35・1%増え、24万8726台となった。
 トランプ関税の影響などにより、欧州の自動車メーカーの今年上半期の営業利益は軒並み減少した。その中でBEVの販売台数回復は、「長く暗いトンネルの中のかすかな光明」と評価されている。
 フォルクスワーゲン(VW)グループは7月9日、「わが社が欧州で今年上半期に販売したBEVの数は約34万7900台で、前年同期(18万4100台)に比べて89%増えた」と発表した。同グループは欧州のBEV市場で最も大きい約28%のシェアを持っている。
 今年に入ってからBEVの販売台数が伸びている最大の理由は、EUが二酸化炭素(CO2)排出量の規制を強化したことだ。EUは2019年に制定した法律により、自動車メーカーの乗用車やバンのフリートの走行距離1キロメートル当たりのCO2排出量に上限値を設定している。24年末までの上限値は1キロメートル当たり115・1グラムだったが、今年1月1日から29年末までの期間については、93・6グラムに18・7%引き下げられた
 ACEAは、「多くの自動車メーカーがこの目標を達成できず、業界全体で150億ユーロ(2兆5500億円、1ユーロ=170円換算)の罰金の支払いを命じられる可能性がある」として、EUに対して規制を緩和するよう泣きついた。
 そこでEUは業界の要請を聞き入れて、93・6グラムという上限値達成の期限を2年間延期して、27年末にした。この上限値を達成して罰金の支払いを回避するには、フリートの中にBEVが占める比率を増やすのが最も有効な方法だ。このため欧州の自動車メーカーは、今年に入ってBEVの値引きを開始した。
 ドイツの自動車専門紙によると、VWのあるBEVのメーカー希望価格は4万8970ユーロだったが、今年7月の時点では13・5%値引きされて4万2383ユーロで買うことができた。BMWのあるBEVのメーカー希望価格は7万200ユーロだったが、今年7月には約27%安い5万986ユーロで買うことが可能だった。
 この値引き競争の結果、BEVは上昇気流に乗り続けるだろうか?
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウント https://www.facebook.com/toru.kumagai.92
