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【新ヨーロッパ通信】不気味なロシアの挑発行為
ウクライナ戦争には終息の見通しが立っていない。そうした中、ロシアによる他の欧州諸国への挑発が頻繁に起きている。
9月9日には、ロシアのドローン(無人機)19機がポーランド領空に侵入した。このため、ポーランド空軍と、北大西洋条約機構(NATO)に属するイタリア、オランダなどの戦闘機が緊急発進して、ドローンを撃墜した。一部のドローンは、ウクライナとの国境から700キロ以上離れた地域まで到達した。
NATO加盟国の戦闘機が領空を侵犯したドローンを撃墜したのは、初めてだ。ポーランド政府は「安全が脅かされた」として、北大西洋条約第4条に基づく、NATOとの緊急協議を要請。NATOは、「受け入れがたい挑発行為だ」とロシアを非難した。
さらに9月14日にはロシアのドローンがルーマニアの領空にも侵入した他、9月19日にはロシアの戦闘機3機がエストニアの領空に侵入した。NATOはロシアに抗議したが、プーチン政権は一切の責任を否定した。
ロシアのサボタージュとみられる事件は、西ヨーロッパでも次々に起きている。9月23日には、正体不明のドローンがデンマークとノルウェーの空港の周辺を飛行したため、旅客機が約4時間にわたって離着陸できなくなった。
9月9日には、ベルリンで何者かが4本の高圧線に放火したために、一部の地区で60時間にわたり停電が起きた。約4万5000世帯が影響を受けたこの停電は、第二次世界大戦後ドイツで最も長い停電だった。
ドイツのノルトライン・ヴェストファーレン州では今年8月以来、3回にわたって何者かが通信ケーブルなどを切断し、列車の運行に大きな支障が出た。
2024年にはドイツの貨物運送会社DHLの倉庫で、ポーランドや英国に送られるはずだった小包に仕掛けられた時限発火装置が火災を発生させた。
ドイツなどの捜査当局は、これらの妨害行為の背後に、ロシアの諜報機関や軍と関係がある極左テロ組織、工作員がいるのではないかとみて捜査している。
現代の戦争は、戦車や大砲、戦闘機だけで行われるわけではない。無人機やサボタージュ、サイバー攻撃、偽情報などさまざまな手法を組み合わせて敵を攻撃する。これをハイブリッド(混合型)戦争と呼ぶ。ベラルーシが、アフガニスタンや中東諸国から多数の難民を集めてバルト三国などに送り込もうとするのも、敵国を混乱させるハイブリッド攻撃だ。
これらの現象は、欧州での安全保障をめぐる状況の悪化と、緊張の高まりを示唆している。
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92
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