Advertisement Advertisement

コンテンツ

新ヨーロッパ通信

【新ヨーロッパ通信】独はなぜパレスチナを承認しないのか

SHARE

 10月10日、ガザ停戦が発効した。イスラム組織ハマスは2年以上拘束していたイスラエル人の人質20人を解放し、イスラエルもパレスチナ人約2000人を釈放した。だが、イスラエルは、「ハマスが人質の遺体全てを返還していない」として散発的な攻撃を続けており、根本的な解決への道は遠い。
 ガザ戦争は中東の歴史で最も犠牲者が多い戦争の一つだった。国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、10月22日までにガザ市民約6万8000人が死亡した。イスラエル側では約1200人が死亡した。
 同時にガザ戦争は、イスラエルとパレスチナが共存する「二国間解決」への努力を加速させた。9月23日にフランスのマクロン大統領は、パレスチナ国家を承認した。英国、ベルギー、カナダなども同様の措置を取った。承認した国は、国連加盟国193カ国のうち、約160カ国に迫る。
 ドイツは通常人権を重視する国だが、パレスチナを承認していない。ドイツ政府は、「承認は、パレスチナが国家の体裁を取り、二国間解決が実現する直前に行うべきだ」と主張している。
 ドイツがパレスチナを承認しないもう一つの理由は、第二次世界大戦中にナチス・ドイツが約600万人のユダヤ人を虐殺したことに対する反省から、基本的にイスラエル側に立つという政府の原則だ。2008年当時首相だったメルケル氏は、「イスラエルの安全を守ることは、ドイツの国是だ」と言った。これまでドイツ政府は、イスラエルのガザ攻撃で民間人の間に多数の死傷者が出ていることを強く批判しなかった。
 しかし、今年ドイツの態度に変化が生じた。8月8日にメルツ首相は、「イスラエル軍がガザで使う可能性がある軍事物資の供与を停止する」と発表した。イスラエルのネタニヤフ首相が、ガザ攻撃を強化する方針を明らかにしたことに対する抗議だった。
 ドイツ政府がイスラエルに対して、部分的な武器禁輸に踏み切ったのは初めてであり、両国の関係史の大きな分岐点だ。
 だが、ドイツはパレスチナ承認や、EUによる制裁への参加には消極的だ。ナチスが絶滅収容所で多数のユダヤ人を殺した記憶は、今も多くのドイツ人たちの心に重くのしかかっている。
 メルツ氏の武器禁輸は、過去の負の遺産に基づくドイツの忍耐にも、限界があることを示した。同時にイスラエル人の感情に配慮して、早期のパレスチナ承認には踏み切らない。ドイツ人たちはユダヤ人虐殺の重荷のゆえに、将来もこの微妙な綱渡りを続けざるを得ないだろう。
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

SHARE