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マリウポリの惨劇(下)

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 「マリウポリス2」は、リトアニア人の映画監督マンタス・クヴェダラヴァシウスが、戦闘が続くマリウポリに同僚のアンナと2人で赴き撮影したドキュメンタリー映画である。2022年のカンヌ映画祭で初めて上映された。戦闘が続いていたマリウポリでの映像は少ないので、貴重な作品である。後述するが、マンタスは自分の命と引き換えに、この映画を世に問うた。
 砲爆撃がひどく被弾する危険があるので、マンタスはマリウポリの町の中で自由に取材できなかった。このため、彼らはマリウポリ市民が避難している教会の地下に隠れて寝泊りしながら、教会の中、周囲の情景を撮影した。
 恐ろしいのは、雷鳴のように常に轟く爆発音、大砲の発射音、戦闘機の爆音だ。これを毎日聞いていたら、それだけで神経がすり減ってしまうはずだ。教会の周囲の住宅街は砲撃でめちゃめちゃに破壊され跡形もない。残骸の山だ。
 ドキュメンタリー映画の大半は、黒煙が立ち上り、砲撃音がこだまするマリウポリのロングだ。音楽もナレーションも全くない。黙示録的な光景である。
 マンタスはマリウポリから脱出するために、自動車を貸してくれる人を探しにいったまま、アンナの元に二度と戻ってこなかった。
 悲しみで半狂乱になったアンナは、銃弾が飛び交う中、ウクライナ軍とロシア軍の間の戦線を徒歩で越えて、行方不明になったマンタスを探しにいく。アンナがロシア軍に撃ち殺されなかったのは、奇跡としかいいようがない。
 アンナはロシア軍の前線司令部にまで乗り込み、スラビという将校に「マンタスはどこだ」と詰め寄る。スラビはアンナの剣幕に驚いたのか、数日後、ある廃墟の中庭に倒れているマンタスの遺体を見せる。頭と胸を銃弾で撃ち抜かれていた。
 アンナはロシア軍からマンタスの遺体を引き取った。そして、彼が撮影した素材とともにリトアニアに戻り、映画を編集した。つまり、この映画は、マンタスの遺書である。
 マンタスは戦争が起きる前の2016年にマリウポリに関するドキュメンタリー映画を作っており、この町と市民を愛していた。このため、ロシアのウクライナ侵攻の報を聞くと、矢も楯もたまらずにマリウポリにやってきたのだ。マンタスの遺体はリトアニアで荼毘(だび)に付され、アンナと休暇で行くはずだったギリシャの島の沖で、海にまかれた。
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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