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新ヨーロッパ通信

なぜドイツ人は森を愛するのか(中)

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 ロマン主義の時代に生きたドイツの言語学者グリム兄弟は、約240編の童話を集めて出版した。彼らが集めた童話にも、森が頻繁に登場する。森は人知では計り知れない不思議な現象や危険が潜む場所として描かれている。「赤ずきん」が道草を食って狼にだまされるのは、深い森の中だ。ヘンゼルとグレーテルが口減らしのために親に捨てられ、魔女が作ったお菓子の家を見つけるのも、森の中である。
 グリム兄弟が集めた童話の一部は、樹木を生命の源や、人間を助ける存在として描いている。例えば、「灰かぶり姫」で継母にいじめられるシンデレラを助けるのは、ハシバミの木だ。シンデレラが実母の墓にハシバミの実を植えたところ、木が大きく育って、シンデレラが舞踏会に行けるように豪華なドレスを与えてくれる。ハシバミの木が母親の生まれ変わりとしてシンデレラを助けたのだ。ここでは樹木が人間を助ける存在として描かれている。中世の人々は、毎年春になると新緑を身にまとい、木の実によって人々に栄養を与える樹木に生命力を見ていたのだ。
 また、「一つの眼、二つの眼、三つの眼」という童話でも、樹木が人間を助ける。三姉妹のうち、二つの眼を持った娘は、一つ眼、三つ眼の姉妹にいじめられる。ある日、二つ眼の娘が飼っていたヤギが死んでしまう。娘が泣いていると老婆が通りかかり、家の前にヤギの内臓を埋めるように言う。土に埋めたヤギの内臓から1本のリンゴの木が育った。この木は、二つ眼の娘だけに金のリンゴを与えた。やがて若い騎士が通りかかってリンゴの木に目をとめ、二つ眼の娘と結婚する。樹木は困っている人を救う存在として描かれている。
 森を心のよりどころと見なす傾向は、ロマン主義の詩人たちに引き継がれた。例えば、ヨーゼフ・フォン・アイヒェンドルフ(1788年~1857年)は「別れ」という詩の中で、「おおはるかなる谷よ、山よ。美しい緑の森よ。(中略)森の外では人間は常にだまされる。あくせく働いてばかりの生活だ。森よ、どうか私の周りにもう一度緑の覆いを作ってくれ」とうたった。
 彼は森が多い故郷を離れて見知らぬ都会に出ようとしているが、町での生活の喧騒と慌ただしさに不安を抱いている。彼は生活環境の大きな変化を前にして、森に対して「お前の神秘的な力を使って、都会の悪影響から自分を守ってほしい」と訴えている。
 (つづく)
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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