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新ヨーロッパ通信

なぜドイツ人は森を愛するのか(下)

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 ドイツの詩人ライナー・マリア・リルケ(1875年~1926年、出身はプラハ)にも、森を題材にした詩が多い。ある作品では、「美しい森よ!まだ冬の寒さが厳しいのに、おまえはすでに春への憧れを内に秘めている。私の目には白銀の雪の中に、おまえの緑への憧憬がはっきりと焼き付く。そうやって森の奥深くへ向けて歩いていると、私がどこから来たか、どこへ行こうとしているのかは、もはや重要ではなくなってしまう」。リルケは、森に対して恋人のような親近感を抱いている。
 森は、恋人たちに憩いを提供する場所でもある。リルケはある詩の中で、騒がしい町を出て恋人を森に誘う。「君は、喧騒で疲れたのだろうか?このせわしない生活は、僕もすっかり嫌になった。見てごらん、僕たちが歩く森のかなたには、美しい城のように夕焼けが見える。さあ僕と一緒に歩こう。僕たちに朝はいらない。君の香りは、まるで春を告げているかのようだ。さあ、僕のために新しい花の輪を編んで下さい」。リルケの詩の中で、森は社会のしがらみや騒がしさから人間を守り、新たな活力を与える場として描かれている。
 「ドイツの森」という本を書いたデトレフ・アレンスという著述家は「ドイツ人が森に対して抱く感情には独特のものがある。フランス人は植木が幾何学模様に整えられた公園を好むが、それは彼らが自然を征服して距離を置こうとしていることを示す。これに対し、ドイツ人は森の懐に抱かれることを好み、森を生活の一部と見なしている」と述べている。
 私はドイツ人ではないが、33年間にわたって森で散策したりジョギングしたりすることで、心が洗われるのを何度も体験した。樹木から青葉が日に日に伸びて来る4月から5月には、森の生命力に心を打たれた。この葉が光合成によってCO2を吸収し、逆にわれわれが必要とする酸素を出す。私は1990年代に、ミュンヘンのボーゲンハウゼンという、緑が多い地区のオフィスで働いたことがある。窓から外を見ると、目に入るのはこんもりとした緑の葉だけだった。樹木はコンピューターの画面を見続けてくたびれた眼と心を休ませてくれた。人間にとって森はかけがえのない、貴重な存在である。ドイツ人の環境保護への熱心さは、彼らが森に対して寄せる愛情抜きには説明できない。森は、彼らにとって酸素や水と同じように、生きる上で不可欠な要素である。
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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