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EUのインダストリー5とは何か(上)

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 2011年にドイツ政府が始めた製造業のデジタル化プロジェクト「インダストリー4.0」に「強敵」が現れた。22年4月に欧州連合(EU)が「人間を中心とした製造業のデジタル化計画」インダストリー5.0を提唱したのだ。EUの提案の背景には、コロナ・パンデミックと地球温暖化に対する懸念から、持続可能性や経済のレジリエンス(耐性)を高める狙いがある。
 ドイツ政府がインダストリー4.0宣言を行ってから今年で11年。大手メーカーを中心にデジタル化、生産ラインの自動化は急速に進んだ。特に、シーメンス、ボッシュ、フォルクスワーゲン、BMWなどは、製造や製品デザインのプロセスにインダストリー4.0関連技術を積極的に導入している。
 インダストリー4.0関連技術がドイツの製造業界に浸透しつつあることは、ドイツIT通信ニューメディア産業連合会の統計に表れている。
 昨年4月公表のアンケート結果によると、回答企業の90%がインダストリー4.0関連技術をすでに使っているか、導入を計画している。その比率は16年(65%)に比べて25ポイント増加した。16年には回答企業の12%が「インダストリー4.0に全く関心がない」と答えていたが、昨年の調査では「無関心」と答えた企業の比率はゼロだった。
 22年にEUは、「インダストリー5.0」という新しい概念を打ち出した。このプロジェクトはインダストリー4.0を補足するものであり、機械ではなく人間を中心に据え、持続可能性を重視し、パンデミックのような不測の事態に対する社会の耐久性を高める。
 さらにEUは、「欧州が現在経験している変化の中で、産業界は重要な役割を果たす。だが、産業界が欧州に繁栄をもたらす原動力であり続けるためには、産業のデジタル化とグリーン化に拍車をかけなくてはならない」と指摘。その上で、「産業界の目標は、生産性と効率性の向上だけにとどまってはならない。インダストリー5.0は、産業界の社会への貢献度を高めるためのビジョンだ」と説明する。
 EUは、「インダストリー5.0は、働く者の幸福を製造プロセスの中心に置く。天然資源の有限性に配慮しながら、雇用と経済成長を超えた繁栄をもたらすための新しいテクノロジーを使う」と主張する。さらに「エネルギー消費を減らし、バリューチェーンを見直すことは、コロナ・パンデミックのような不測の事態に対する産業界の耐性を強化する」という。
 (つづく)
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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