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E燃料に期待をかける自動車業界(下)

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 E燃料とは、大気中の二酸化炭素(CO2)と水素を使ってメタノールを製造し、最終的に自動車の燃料に変換するもの。現在使われているガソリンやディーゼル用の軽油を製造する際には、大量のCO2が排出される。これに対し、水素とCO2から作られるE燃料では、水素を電気分解する際に再生可能エネルギーによる電力だけを使う。このため、E燃料の製造過程で排出されるCO2の量は、ガソリンや軽油に比べてはるかに少ない。つまり、カーボン・フットプリントが少ない自動車燃料である。
 スポーツカーのメーカーとして知られるポルシェとシーメンス・エナジーは、チリのHIF社とともに、2025年までに同国南部に500万キロワットの容量を持つ水の電気分解設備を建設する。さらに両社は、30年までに水電解設備の容量を2500万キロワットに引き上げる予定だ。「ハル・オニ計画」と名付けられたこのプロジェクトで、E燃料の有効性が確認されれば、両社は24年に5500万リットル、26年に5億5000万リットルのE燃料を製造する。
 両社はチリ南部に建設する陸上風力発電所からの電力で水を電気分解し、グリーン水素を生産する。大気中のCO2とグリーン水素を使って合成メタンを製造し、最終的にはE燃料に変換する。ポルシェは30年までにカーボンニュートラルを達成することを目指しており、E燃料を自社のスポーツカーに使用する方針。
 ドイツの自動車燃料の供給企業は20年以来、燃料に持続可能性の高い燃料を最低7%混ぜることを義務付けられている。ただし、19年にドイツで消費されたガソリンとディーゼルの軽油の量は420億リットルに上る。つまり、チリの工場で製造されるE燃料の量はまだ大海の一滴に過ぎない。
 ちなみに、EUの経済・エネルギー大臣会合は昨年、35年以降はCO2を排出しないノー・エミッション・カー以外の新車の販売を禁止することを決めている。事実上バッテリーだけを使うBEVや燃料電池車以外の新車は売れなくなる。だが、ドイツの要請で、欧州委員会はE燃料を使う車をノー・エミッション・カーと認めるべきかどうかを、現在検討している。
 もしも欧州委員会がゴーサインを出せば、ドイツの自動車業界はE燃料を使った内燃機関の新車を販売できるようになる。E燃料の今後は、自動車業界にとって重要な意味を持っているのだ。
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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