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ドイツが脱原子力を達成(上)

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 4月15日深夜、RWEなどドイツの大手電力会社3社は、ニーダーザクセン州のエムスランド原子炉など、最後の原子炉3基のスイッチを切った。ドイツは2011年に日本の福島第一原発で起きた事故をきっかけに脱原子力政策を加速し、約62年間続いた原子炉の商業運転の幕を閉じた。
 ベルリンやミュンヘンでは、環境保護団体などが脱原子力の完遂を祝った。ハーベック経済気候保護大臣は「原子炉が廃止されても、ドイツのエネルギー安定供給は確保される。わが国はロシアの天然ガス供給停止にもかかわらず、冬を乗り切った。脱原子力が後戻りすることはない」と語った。 
 だが、市民の間では、脱原子力について批判的な意見が強い。ドイツ公共放送連盟(ARD)が4月14日に公表した世論調査の結果によると、「脱原子力政策は間違っている」と答えた市民の比率は59%で、「正しい」と答えた市民の比率(34%)を25ポイント上回った。
 11年の福島事故直後に行われた世論調査では、54%が脱原子力に賛成し、反対する市民の比率(43%)を上回っていた。これらの数字は、ドイツ市民の間で福島事故の記憶が薄れ、原子力を容認する市民が増えていることを示している。
 世論の変化を加速したのは、ロシアのウクライナ侵攻後の電力・ガス価格の高騰だ。ARDの世論調査では、回答者の66%が「エネルギー価格の高騰が心配だ」と答え、「心配していない」と答えた回答者の比率(32%)を大きく上回った。戦争勃発後、エネルギー供給会社は一時電力・ガス価格の大幅な値上げを発表した。昨年10月~11月には、ミュンヘンの地域エネルギー会社SWMが電力・ガス料金の約2倍の引き上げを顧客に通告するなど、「異次元の料金改定」が市民や企業経営者に衝撃を与えた。
 むろん、実際に料金が2倍になったわけではない。ドイツ政府が今年1月1日以降、電力、ガス、地域暖房の価格について部分的な上限を設定する激変緩和措置を実施したため、エネルギー価格の上昇率は抑えられた。さらに昨年8月下旬以降はガスの卸売価格が下落し、これに連動して電力の卸売価格も下がったために、電力・ガス料金の倍増は避けられた。だが、市民の心の中には、昨年のエネルギー価格値上げ通告の際のショックが刻み込まれている。ARDの世論調査結果は、「エネルギー危機が続いているのに、使える電源を廃止するのは正しいのか」という市民の不安感を表している。
 (つづく)
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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