ドイツから見た広島サミット(中)
広島サミットにはウクライナのゼレンスキー大統領が参加し、各国首脳に戦闘機供与の重要性を直接訴えた。その結果、米国は同盟国がF16など米国製の戦闘機を送ることに同意した。以前、西側の戦闘機供与は米国にとってタブーだった。
だが、欧米諸国は、今から1年前には「ロシアを刺激したくない」として供与をためらっていた武器を大量にウクライナに送っている。
例えば、ゼレンスキー大統領は5月14日に初めてドイツを訪問したが、ショルツ政権はウクライナへの軍事支援額をこれまでの2倍に増やすと発表した。同国はレオパルド1型戦車30両、マルダー装甲歩兵戦闘車20両、IRIS―T対空ミサイル4基など総額27億ユーロ(3780億円、1ユーロ=140円換算)相当の兵器をウクライナに供与する。ドイツは米国に次いで、ウクライナに対する軍事支援額が世界で2番目に多い国になった。
広島サミットでのゼレンスキー大統領との協議後、欧米諸国が「最後のタブーの一つ」と見られていた西側製の戦闘機まで供与することを決めたのは、ウクライナ戦争の長期化の危険が高まっていることを示している。
さて、日本は世界で唯一、核兵器による攻撃を受けた国だ。広島市では原爆投下により市民を中心に約14万人、長崎市では約7万4000人が死亡した。ロシア政府は、ウクライナ戦争で核兵器使用の可能性をちらつかせている。ロシアがウクライナで劣勢に追い込まれた場合、挽回のために戦術核兵器を使う危険がある。核兵器の使用を防ぐために、1945年に原爆で廃墟と化した広島にG7諸国の首脳たちが集ったことには、大きな意義がある。
5月19日に、G7首脳は広島の平和記念資料館を訪問した。ここには犠牲者が着ていた服や原爆の熱線で溶けたガラス瓶、三輪車の残骸、ホルマリン漬けにされたケロイドの残る皮膚、真っ赤に焼けただれた被害者の背中の写真、熱線で顔など上半身が炭化した被害者の写真などが展示されている。核兵器が人体にいかに酷い損傷を与えるかを、ここほど詳細に教える場所は世界のどこにもない。
ショルツ首相は記帳の際に「この場所は、想像を絶する苦しみを思い起こさせる。私たちは今日ここでパートナーたちとともに、この上なく強い決意で平和と自由を守っていくとの約束を新たにする。核戦争は決して再び繰り返されてはならない」と書いた。首脳たちはこれらの展示物を見て、核兵器の残酷さを肌身に感じたかもしれない。
(つづく)
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
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