コンテンツ
- ホーム
- 保険毎日新聞コンテンツ
- 特集
- 特集
リスキリングで新たな高みへ~かんぽ生命

社内外でリスキリングを通じて新たな視点を獲得し、事業貢献に向けた挑戦を続ける人物を紹介する特集の今回は、かんぽ生命の稲木健人氏。稲木氏は社内で採用・育成業務を担当するかたわら、副業として中小企業の情報管理支援に取り組んでいる。副業先では、情報管理の社内規定の整備を手掛け、また毎月、全国の社員を対象とした研修などを実施してコンプライアンスの浸透も図っている。こうした社外での取り組みを、本業である社員の育成環境づくりとして業務に還元している。
かんぽ生命 稲木健人 氏
「社員の成長のため」副業に挑む

人事戦略部人材開発室採用・育成企画担当課長
積極的にリスキリングに臨む文化醸成に意欲
都と連携の制度利用し中小企業支援に従事
稲木氏は、新卒で入社した損保会社を退職して大学院で社会保障を学び直し、かんぽ生命に入社した経歴を持つ。同社入社後は、経営企画、営業推進、支店勤務、情報セキュリティーや、コンプライアンス関連等の幅広い業務を経験し、現在は人材開発室に所属して人材採用と育成業務を担当している。同時に、副業制度を活用して中小企業の情報に関する内部管理体制の強化を支援している。
この副業制度は、東京都と大企業の連携事業の一環で行われており、都市部の中小企業を大企業の人材が支援するとともに、中小企業での実務経験を通じて大企業の人材育成を図ることを目的に実施されている。同氏は、㈱住地ゴルフの情報管理要領の策定、従業員の情報リテラシー向上に向けた社内研修等を実施している。全従業員約50人を対象としたコンプライアンス研修も手掛けており、これまでに情報セキュリティー、ハラスメント、時事情報等をテーマに幅広い内容を扱っている。
感謝の言葉が学びの原動力
副業に踏み出した背景には、自社で培ったスキル・経験が社外でも受け入れられるのかという疑問があった。同氏は「社内には成長できる環境がたくさんあるが、そこから得たスキルや経験が、自社でしか使えないのではないかという漠然とした疑問があった」と話す。そこで自らの能力を外部で試すため、また何が社会に喜ばれるかを知るために、副業制度に応募したという。加えて、「慣れない環境に身を置くことは思考を柔軟に保つと考えており、あえてそういう環境に定期的に身を置くことで、より柔軟な思考を持ち続けられるようにしたい思いもあった」と明かす。
副業に臨むにあたり、同氏は個人情報保護法の条文や経産省のガイドラインをあらためて読み込み、事業承継で引き継がれる顧客データの扱いといった事例に加え、実際に起こりうるインシデントを念頭に置き、運用するための知識を補強している。このような準備をした上で、不明点があれば目的を持って調べるという姿勢を徹底している。
こうした学びへのモチベーションについて、同氏は「本業、副業にかかわらず、やはりありがとうと言われると素直にうれしいから」と話す。
「まずはチャレンジ」
情報管理の知見等に基づく同氏の仕事ぶりは、副業先では貴重な知見をもたらすものとして喜ばれている。中小企業では情報管理やコンプライアンスの体制整備がまだ発展途上にあり、例えば策定した情報管理要領の周知や、入社時の誓約書の運用、書類保管の期限等のルール化・文書化は実務の質を向上させていると評価されているという。同氏は「中小企業では、採用や広報といった分野は経営者が自ら担うことが多く、外部支援の余地は少ないことが分かった。一方、情報管理やコンプライアンスといった分野では多くのニーズがあることを実感した」と話す。
副業先での経験は、本業にも新たな示唆を与えている。同氏は、副業先の社員がコミュニケーションツールを柔軟に活用していることを目にし、自社では連絡手段がいまだメール中心であることに、世間とのずれを肌で感じたという。
同氏は、こうして副業先で得た知見を、自社の人材育成の取り組みに生かしていきたいと話す。加えて今後に向けては、自身が実際に体験したからこそ見えた副業の制度上の課題点を踏まえて、制度を見直していきたいとの意気込みを示す。「当社にはキャリアチャレンジなど、社員の成長を支援する制度が多くある。社員の成長を目的とした越境研修、海外MBA等の活用を拡大していきたい。そのためには『まずはチャレンジする』という雰囲気をつくることが重要だ」と語り、自身がその先頭に立つことで、多くの社員が積極的にリスキリングに挑戦できるカルチャーの醸成に意欲を見せている。

