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【保険毎日新聞社 創刊80周年記念特集】〈対談〉カルチャー変革の実践「“個”の実現を組織の力に」 損保ジャパン常務執行役員 酒井香世子氏、第一生命ホールディングス執行役員 坂本香織氏

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【保険毎日新聞社 創刊80周年記念特集】〈対談〉カルチャー変革の実践「“個”の実現を組織の力に」 損保ジャパン常務執行役員 酒井香世子氏、第一生命ホールディングス執行役員 坂本香織氏

保険業界が激動の時代を迎えている今、新たな価値を生み出す多様性や個性の尊重が一層重要性を増している。業界が社会的意義を守りながら発展し続けるためには、“個”を大切にする組織文化への変革が不可欠だが、一方で男女差に目を向けると、保険業界の平均女性役員比率は約16%(2024年7月末時点)にとどまり、ジェンダーギャップ解消には依然として課題が残る。そこで本紙では、性別にとらわれない“個”の実現と組織力の強化を目指しカルチャー変革をけん引する二人のリーダーによる対談を企画した。損保ジャパン常務執行役員CHRO・CCuOの酒井香世子氏と、第一生命ホールディングス執行役員Group Chief Brand and Culture Officerの坂本香織氏に、変革の実践や一人一人が個性を発揮していきいきと働くために必要な視点について語ってもらった。

損保ジャパン常務執行役員 酒井 香世子 氏(右)
第一生命ホールディングス執行役員 坂本 香織 氏(左)



「いきいき・わくわく」が未来を開く



――これまでの経歴を。

酒井 1992年に旧安田火災(現損保ジャパン)に入社し、営業店勤務を経験した後、国内金融機関初となる環境専門部署の地球環境室に配属された。環境報告書の作成やエコファンドの企画など、保険会社の枠を超えた業務に関われたことは大きなやりがいにつながった。その後、広報、人事、内部監査、内閣府男女共同参画局への出向など、幅広い業務を経験し、損保ジャパンDC証券の社長を経て、現在は損保ジャパンで人事・カルチャー変革を、SOMPOホールディングスでサステナビリティを担当している。

坂本 94年に第一生命に入社し融資事務を担当したが、自分が十分に貢献できていない劣等感や、この先活躍できるのかという不安から、当時は転職の道を選んだ。転職先のベネッセホールディングスと良品計画で広報・IR・サステナビリティに約20年間携わり、「理念の浸透により社員の活力を引き出すことで、社員の力がステークホルダーとの接点で発揮されブランドが育まれる」という信念を軸に業務を進めてきた。2年前に第一生命グループに復帰し、昨年刷新したグループ理念の浸透と2026年に新たにスタートする「Daiichi Life」のブランド戦略を担っている。

――キャリアの転機となった出来事は。

坂本 ベネッセで30歳のときに経営企画部に異動になり、創業家から外部経営者への交代に伴うコーポレートガバナンスに携わったことが最初の転機だった。改革により業績が向上する中で経営の面白さに目覚め、世界が広がった感覚を味わった。この時初めて「将来経営に関わりたい」と思った。

酒井 入社1年目に配属された営業店の課長との出会いがキャリアの原点だ。毎日のように「将来どうなりたいのか、そのためにどんな努力をしているのか」と問いかけられ、自分のキャリアをバックキャスティングする習慣が身に付いた。次に配属された地球環境室は、当時の社長がリオ地球サミットに参加したことをきっかけに環境問題への強い意識を持って立ち上げた部署であり、同部署でビジョナリーな経営判断に触れたことも大きな原動力となった。
営業店の次は本社業務に就きたいという希望を持っていたが、そのための努力を言語化できたことが実現につながったと感じている。言霊には希望を叶えるパワーがある。仮に希望が通らなかった場合でも、置かれた場所でどう努力し、どうなりたいかを考え言葉にすることが大切だ。

坂本 私も言霊の力を信じている。かつて、酒井さんも私も、企業の女性幹部の育成とDEIの促進・定着の支援を行うNPO法人J―winに参加していたが、その際「自分がどうしたいのかを言葉にしなければ相手には伝わらない」と繰り返し教えられた。そこで、「部長になりたい」と言葉にしたところ、最初は周囲に驚かれたが、伝えたことで部長のポジションに就くことができた。この経験を通じて言葉にすることの大切さをあらためて実感したので、それ以来、「言わなければ伝わらない」を心に留めて行動している。



――キャリアの中でジェンダーギャップを感じたことは。

酒井 「自分にリミットを設けたくない」と考え総合職を選択したので、女性という理由でギャップを感じた経験はあまりなかった。ただ、14年に内閣府に出向した際、日本のジェンダーギャップの現実をファクトとして突きつけられ衝撃を受けた。当社は6対4で女性の比率が高いが、管理職以上の意思決定層では依然として女性が少ないという事実がある。

坂本 私も特段ジェンダーギャップは感じてこなかった。ただ、総合職として新卒で第一生命に入社した際は、ニュートラルに受け入れてもらったにもかかわらず、「失敗したら『だから女はダメだ』と言われるのではないか」と一人で緊張していた。今思えば自分で壁を作っていたのかもしれない。仕事をしてみれば「女性総合職の坂本」ではなく一人の「坂本さん」だ。丁寧に対話をすれば、立場を超えた理解や信頼が生まれる。そうした関係性こそが、固定観念の枠を取り払っていくのだと考えている。



酒井 私もカルチャー変革担当に着任してから、役員と共に社員一人一人と対話を重ねてきた。性別に関係なく“個”として力を発揮できる環境をつくるためには対話が不可欠だ。また、“個”の実現を後押しするに当たっては、例えば、立場や性別にとらわれないメンター制度を導入するなど、男女を隔てないことも重視している。

坂本 ジェンダーやキャリアの違いなどギャップに苦しむ人が現れないよう、一人一人の個性を尊重し合える制度や環境を整備することは個人と組織の双方にとって非常に重要だと考える。異なる価値観を持つ“個”が集まるからこそ多様な視点が生まれ、組織がより強くなれるのだと思う。



――制度が整いつつある一方で、管理職を望まない人が増えている理由をどう見ているか。

酒井 背景の一つとして、コンプライアンス対応や部下育成など、実務以外の負荷が増えていることが挙げられるが、AIやデジタルの進化によってその負担が軽減される可能性はある。また、全てを一人で抱えずにチームとして成果を出すという視点を持つことで、管理職の面白さにも気付けるのではないかと思う。

坂本 役職は単なる役割分担だと考えている。対話を通じてメンバー一人一人の強みを引き出し、組織をより良い方向へと導くのが管理職の役割であり、担う役割が変わるだけ。もちろん大変さもあると思うが、その分、わくわくすることも多いはずなので、ぜひその楽しさに目を向けてほしい。



酒井 当社ではまさに今年から、社員がわくわくと働けるよう、企業理念への共感や働きやすさ・働きがいを可視化する「いきいき・わくわく指数」を導入した。現在、社内での対話を通じてその意味を共有しながら、カルチャー変革を推進している。

――組織文化の変革に欠かせない要素とは。

坂本 社員一人一人のエネルギーを引き出す高い目標が必要だ。当社では、30年度に「グローバルトップティアに伍する保険グループ」「時価総額10兆円規模」になるという目標を掲げているが、これは社員にとってもイマジネーションをかき立てるようなわくわくする未来像だと思う。共通の目標である“北極星”に向かって皆で進んで行くが、到達までの経路は「みんなちがって、みんないい」。これこそが組織と個人、両方の力を最大化するための要だと考えている。

酒井 当社では「経営から変わる」をキーワードに、社員の声に丁寧に耳を傾けることから始め、経営陣の意識や価値基準が大きく変わってきたところで、「対話」「承認」「DEI」「学び」の四つを軸に組織変革の基盤づくりを進めてきた。DEIを確保した上で対話と承認を徹底し、変わるために学び続ける。これを仕組み化し継続的にPDCAを回すことが重要だと考える。昨年は対話を通じて「新しい損保ジャパンの目指す姿」を策定し、「損保ジャパンでよかった。SOMPOでよかった。」「お客さま、社会、そして自分にまっすぐ。」というビジョン・バリューを明文化した。今年は浸透のフェーズとして、“北極星”となるパーパスに向かって全社で歩みを進めているところだ。

――「自分らしく、いきいきと働く」ために大切なことは。

坂本 私個人としては自分の情緒を大事にしようと決めている。金融機関ではロジックと数字が重視されるが、「何かおかしい」「どこか楽しくない」などの心の声に耳を傾けることで、変革のヒントが見つかることもある。マネジメントでは、否定や圧力で人を動かす「北風」ではなく、希望や情熱で動かす「太陽」のスタイルを大切にしている。わくわくして目標に向かえるような、心に訴えかけるマネジメントでチームを引っ張っていくことが組織全体の活力につながると信じている。
かつて私は、同期と自分を比べては足りない部分ばかりに目を向けていたが、今は自分ならではの価値を発揮することに意識を向けている。個性を力に変え、その力をチームの中でどう生かすかを真摯に考えることが、未来を切り開く鍵になるだろう。

酒井 「人を育てる」と「場をつくる」を大切にしている。かつては「自分が頑張らなければ」と気負っていた時期もあったが、今は多様な“個”をマネージしてチームで成果を出す方が楽しく、それが価値創造にもつながると実感しているので、自分で考え行動できる人材を育てることを重視している。また、多様な価値観に触れることが多くの気付きをもたらすことから、さまざまなネットワーキングの場をつくりたいと考えている。
「謙虚に学ぶ」姿勢も大切だ。私自身、相当に勉強しているし、ぜひ社員の皆さんにも時代の変化に合わせて学び続けてもらいたい。そしてもう一つ大事なのが、「棚の牡丹餅が落ちるところにいる」こと。チャンスが訪れても、準備ができていなければつかむことはできない。やりたいことがあるならば、日頃からの準備を怠ってはいけない。「そのために自分はどんな努力をしているか」を問い続け、行動を積み重ねていけば、きっと周囲の人たちも応援してくれるはずだ。



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