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【保険毎日新聞社 創刊80周年記念特集】〈対談〉保険業界の新潮流~協業・共創がもたらすイノベーション~

昨今、企業の成長戦略として、社外との協業・共創が注目されており、保険業界でもその重要性が高まっている。本対談では、健康増進型保険“住友生命「Vitality」”(以下、Vitality)のITプロジェクトを牽引し、現在は外部との協業・共創による新たな価値創造を推進する住友生命エグゼクティブ・フェロー/デジタル共創オフィサーの岸和良氏と、損保でのIT経験を生かし、保険業界のオープンAPI普及に向けた有志コミュニティを立ち上げ協業・共創に取り組むGuardTech検討コミュニティ代表の温水淳一氏が、イノベーションを後押しするDXの本質やAIの可能性、協業・共創がもたらす未来像など、保険業界の新潮流を語り合う。

住友生命エグゼクティブ・フェロー/デジタル共創オフィサー 岸 和良 氏 (右)
GuardTech検討コミュニティ代表 温水 淳一 氏 (左)
変革の鍵はAIとマインドセット
DXが求められる背景

温水 まずはDXについてお聞きしたい。保険業界でDXが求められる理由は何か。
岸 かつて保険は明確なニーズに応える独立した商品だった。しかし、スマートフォンやEC(電子商取引)の普及でデジタル接点が拡大し、選択肢が多様化したことで、消費者の関心は保険以外の商品へと移りつつある。他業種がデジタルを活用して顧客接点を広げている以上、保険においても同様の対応が不可欠だ。しかし、保険の価値はデジタルだけでは伝わりにくく、まずは保険と親和性のあるサービスをデジタルで提供することで接点を確保し、顧客満足を高めた上で、対面で保険の重要性を伝えるというアプローチが必要になる。こうした理由から、保険業界においてもDXが求められると考える。
温水 保険業界は他業界と比べてDXが難しいと言われるが、その背景にはどのような要因があるのか。
岸 保険会社の社員は、複雑で分かりづらい保険商品をいかに顧客に理解・納得してもらうかを追求し、保険に特化して研さんを重ねてきた。そのため、慣れないデジタル領域において、保険だけでなく周辺サービスまで扱うことは非常に高いハードルに感じられる。保険販売に対する誇りや責任感といった聖業意識が、保険業界のDXを難しくしている一因ではないかと考える。
温水 そのような課題がある一方で、保険業界はサプライチェーンもシンプルであり、難しさはあっても変わるためのケイパビリティは十分にあるのではないか。
岸 一理あるが、特に長期契約を管理する生保は、依然として紙や人手による作業が多く、完全なデジタル化には時間を要する。一方で、Vitalityのような新しいサービスはデバイスを通じた顧客との直接的なやり取りが中心なのでデジタル化を進めやすい。新旧のシステムをいかに融合させるかがDX推進の鍵となるだろう。
損保は代理店チャネル中心のため、保険会社がデジタル化を進めても、代理店の対応が追いつかなければデジタルの価値を十分に顧客に届けることは難しい。こうした製販分離の体制が損保のDXを難しくしていると考えられる。
温水 私も本業では代理店に在籍しているので、この問題の難しさを実感している。代理店との連携を欠いたまま保険会社単独でDXを進めても、十分な成果は得られない。両者が協力体制を築くことが重要だと考える。
生成AIが与える影響とA2Aの可能性
温水 最近では、テクノロジーの進展によりDXの在り方自体が変わりつつあるが、中でも注目度の高い生成AIは、保険業界のDXにどのような影響を与えるのか。
岸 私のチームでは、企画から調査、プロダクト設計に至るまで生成AIを活用することで、少人数体制でも着実に成果を挙げている。今や日常的な検索においてもAIモードが主流であり、当社でも顧客側と企業側の生成AIエージェントが通信連携し合うAgent2Agent(A2A)の実装に向け検証を進めているところだ。AIが人に代わって顧客に最適な提案を行う時代はすでに始まっており、今後はデジタルやAIを使いこなす企業こそが顧客接点を握ることになるだろう。
温水 興味深い話だ。保険会社、顧客、代理店間のやりとりもA2Aで完結する未来が展望できる。やはり、保険会社だけでなく代理店もAIの恩恵を最大限に享受できる準備が整った「AI-Ready」の状態を整え、互いに調和しながら進化していく必要がある。
岸 顧客が無意識にAIエージェント化していく中で、顧客接点の多い代理店がAIを導入しなければ中抜きされてしまう恐れがある。AI活用はもはや不可逆であり、競争力維持には今の段階でキャッチアップしておくことが重要だ。
協業・共創が生む新たな価値
温水 ここからは、メインテーマの「協業・共創」について伺いたい。保険業界において協業・共創はどのような役割を果たし、どういった価値をもたらすのか。
岸 今の時代、単体商品では差別化が難しく、顧客価値の提供が困難になっている。さらに保険業界は、高齢化に伴う人口減や家族構成の変化により商品の需要が縮小しており、従来型のビジネスだけでは将来の安定は望めない。この状況を打破するには、既存モデルを磨き競争力を強化することが不可欠であり、その鍵を握るのが協業・共創だと考える。
当社はウェルビーイングを支える「WaaS(Well-being as a Service)」をエコシステムとして展開し、Vitalityを中核に疾病管理・ライフステージ支援・加齢支援の3領域で顧客の悩みに寄り添うサービスを提供しているが、このように多様な企業との連携によって顧客接点を広げることで、保険本来の価値を届けることが可能になる。効率化と顧客価値を同時に実現できる点が、共創やエコシステムの価値の一つだと捉えている。
温水 保険エコシステムでは代理店も重要な構成要素だ。保険会社と代理店の関係においては不適切な結びつきが指摘されているが、今後はエコシステムの一員同士、新しいかたちで協業・共創し、価値を生み出すことを期待する。
協業・共創実現には文化・制度改革も必要

温水 協業・共創の重要性が高まる一方で、新たなアライアンスやビジネスモデルの構築には障壁もあると考える。共創を阻む要因と、その克服方法について伺いたい。
岸 最大の阻害要因は自社ドリブンなマインドだろう。共創は、相手企業やその先のお客さまのことを真剣に考え、互いの強みを生かしながら共に価値を創出するという発想がなければうまくいかない。自社の都合で動くのではなく、業界や社会、日本、さらには人類への貢献意識を持つ必要がある。
温水 保険業界には「自前主義」や「内向きの文化」が根強く残っており、それらが業界内の人々のマインドに染み付いているように感じる。打開策としては、「外部からの人材との接点を持ち異なる視点に触れる」「組織の枠を超えて新しい価値観を学ぶ」など、さまざまなやり方が考えられると思うが。
岸 重要なのは、そうした活動の重要性を企業が理解し、許容できるかどうかだ。社外のコミュニティに積極的に関わり広いネットワークを築く人材は、共創を成功させる力を持っている。しかし、外向きの活動が「本業をおろそかにしている」と見なされ、否定的な評価を受けることもある。それでは共創の芽が育たず、こうした人材が居づらくなって退職してしまえば、築いたネットワークや知見が社外に流出し、企業は大きな損失を被ることになる。共創は、挑戦する意欲や柔軟な発想がある人にしか務まらない。だからこそ企業は、こうした人材を正しく評価するとともに、外向きの活動を前向きに捉える文化を育む必要がある。
温水 われわれのコミュニティには、越境してイノベーションを創出したいという意欲を持つ人材が多く参加しているが、社外活動が理解・許容されないケースも多く、葛藤を抱える人も少なくない。内向きのカルチャーやマインドを変えるためには、人事評価を含めた社内制度の抜本的な見直しも必要なのではないか。
岸 労務管理に課題はあるが、越境や副業を業務の一環として認める業務設計は必要だろう。また、社外との適切な関わり方やコミュニケーションの“作法”を身に付けるための教育も重要だ。一方で、社外活動を行う以上、本人もそこから得た知見や経験を本業に還元しなければならない。これが果たされなければ、当然ながら社内の評価は得られない。
温水 全く同感だ。越境は個人の挑戦であると同時に、企業の制度設計と文化の成熟が問われる領域だと再認識した。
継承すべき保険業界の「守りの堅さ」
温水 協業・共創によって新風を吹き込む必要がある一方で、保険業界には継承すべき価値があると思うが、それは何であると考えるか。
岸 保険会社の根幹は「信用」にある。事業を継続できる体力や財務力、顧客の安心と安全を守る品質は、時代が変わっても揺るがない価値であり、「守りの堅さ」を誇る企業がイノベーションに挑むことにこそ大きな意味があると捉えている。
温水 イノベーションを推進するには、まず土台を固めることが不可欠であり、これは代理店においても同様だ。保険会社に頼るばかりでなく、代理店自らが協業・共創の中でテクノロジーを活用しガバナンスやセキュリティを強化する。その上で価値提供を広げ、保険会社との強固なパートナーシップを維持しながら業界全体の価値を高めていく。こうした取り組みが、お客さまからの信頼につながるものと考えている。
最後に、保険業界の理想の未来像をお聞きしたい。
岸 保険業界は社会を支える強固な基盤と優秀な人材を有している。その力を集結し、業界を挙げてイノベーションを起こせば、さらなる価値創出が可能になると確信している。生成AIの登場は、その変革を加速させる類い稀なチャンスだ。保険業界がより柔軟かつ開かれた形で社会に貢献する未来の実現を願っている。
温水 保険業界の未来は、協業と共創の先にある。われわれのコミュニティには他業界から多くの人が参加しているが、この状況は、保険業界が協業・共創を通じて新たな価値を生み出す余地の大きさを物語っている。今後の可能性に期待し、皆さまと共に共創活動を推進して業界の未来を切り開いていきたい。
