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特集

特集 関東大震災から100年(1)今必要な防災・減災のあり方 求められるすべてのステークホルダー

震災当時の「東京駅前の焼け跡、日本橋方面」(気象庁ホームページより)



今必要な防災・減災のあり方
求められるすべてのステークホルダー



 関東大震災から100年の節目を迎えた。大正12年(1923年)9月1日午前11時58分に発生した推定マグニチュード7.9の地震(大正関東地震)によってもたらされた未曽有の大規模災害では、死者・行方不明者は10万人を超え、全壊・全焼住家は約29万棟に上り、当時の日本の社会・経済に大打撃を与えた。その教訓を基に日本の災害対策は強化され、現在の耐震基準の基礎となる耐震規定の制定や、地震発生メカニズムの解明など地震研究の進展につながった。現在のボランティアに当たる住民同士の助け合いも大きな役割を果たし、後に地震発生日が「防災の日」と定められて、毎年、防災訓練や各種啓発活動が活発に行われるようになるなど、関東大震災は近代日本の災害対策の出発点となった。また、その後に発生した大規模自然災害を契機に災害対策は繰り返し見直され、長期的な取り組みを重ねて現在まで発展してきた。それでもなお、現代の日本に暮らす私たちにとって、防災・減災に決して万全ということはなく、終わりのない取り組みだということ、そしてひとたび大規模災害が発生すれば人的被害はもとより、被災地の建物やインフラなどの物的損害、さらには日本の経済・社会・政治・環境など多方面にわたって長期的かつ深刻なダメージをもたらし得ることを、過去の資料や教訓から学ぶだけでなく、現在進行形で経験している。2011年の東日本大震災以上の被害を及ぼす可能性がある首都直下地震の発生が懸念される中、本特集では、100年前の関東大震災に焦点を当てる一方、現在の防災・減災に対する産官学の考えや、とりわけ今後の災害対策のポイントになるとされる自助・共助を中心とした保険会社や自治体などの取り組みを紹介しつつ、今、日本で必要となる防災・減災のあり方を探っていく。



【保険会社の防災・減災支援活動】



 災害対応が本業ともいえる損保会社は、長年にわたって災害リスクへの備えとして地震保険や火災保険などの普及に努めるとともに、発災後の迅速な保険金支払いに向けた取り組みを高度化させてきた。損害保険料率算出機構が8月25日に公表した2022年度の「地震保険付帯率」(住宅物件の火災保険契約件数のうち地震保険を付帯している件数の割合)は69.4%で、03年度以降20年連続で上昇。統計を開始した01年度の33.5%から倍以上に伸び、東日本大震災発生後の11年度の53.7%からも15ポイント以上増加している。
 損保協会や損保各社では、啓発チラシやホームページなどを活用するとともに、地域住民、企業などへのセミナー・イベントの実施などを通じて防災関連情報を発信している。また、損保各社は地方公共団体や代理店と連携し、地域企業に対してBCPや事業継続力強化計画の策定支援を行っている。
これらの取り組みの中には、内閣府が国民の防災意識の向上のために募集している「『災害への備え』コラボレーション事業」と連携しているものもいくつかあり、すでに生損保やそのグループ会社、損保協会など10社・団体ほどが参画している。
 一方、生保業界でも大規模災害等が発生した際の取り組みを進めてきた。生保協会では被災した契約者に対して最大限の配慮に基づいた対応や支援を行う方針としており、東日本大震災を契機に、被災者からの契約照会に対応する「生命保険契約照会制度」を運用している。このほか、災害発生時には生保各社が義援金の寄贈や救援物資の提供等の被災地への援助、保険料払込期間の追加延長や保険金等の簡易支払に関する措置などを講じている。



【オールジャパンで防災力向上を】



 内閣府がホームページ上で公表した「令和5年版防災白書」には、関東大震災から100年にちなんだ特集が組まれており、関東大震災から得られた教訓、日本を取り巻く環境変化を踏まえ、今後の災害対策の方向性が示されている。国土強靭化の推進や防災におけるデジタル技術の活用などとともに、被災者支援体制の構築の必要性が指摘されており、行政による「公助」だけでは十分な被災者支援を行うことが難しいことから、国民一人一人の「自助」の意識を高めていくとともに、「共助」の取り組みを促進するために、NPO、ボランティアをはじめとするさまざまな民間団体が参画し、多様な主体が連携することの重要性が記されている。
 東京大学教授・大学院情報学環総合防災情報研究所センター長の目黒公郎氏(工学博士)も、今後の災害対策に関する研究について、「ハードとソフトの組み合わせに加え、産官学に金融とマスコミを合わせた総合的な災害リスクマネジメント対策の理論構築と社会実装が求められる」と指摘しており、また、震災復興の原則の一つとして、政府や自治体、企業、NPO・NGO、国民、被災地の人たちが連携して知恵と財源を出し合い協調した「全てのステークホルダーの連携」を挙げる。
大規模な被害が想定される首都直下地震や南海トラフ巨大地震が発生した際には、復興に向けたポイントとして被災者の身体と同時に心に寄り添った支援も重要になる。例えば、東京都立(総合)精神保健福祉センターでは、過去に発生した大規模災害での経験も参考にしながら、精神保健分野での支援活動「災害派遣精神医療チーム(DPAT)」など、災害時の被災者支援における「こころのケア」の取り組みを進めている。



【災害対応力を国の強みに】



 目黒氏はまた、東日本大震災後に、災害復興は「将来の繁栄の礎となる創造的復興」を目指すことが重要であり、被災地域の豊かで安全な生活環境を再興するとともに、日本の将来的課題の解決を示すことが必要だとしている。今後の防災対策に対する意識についても、「災害の有無にかかわらず、それを実施する個人や組織、地域に価値をもたらし、災害にも有効活用されるもの」にするべきだとする「コストからバリュー」の考え方を提唱する。
 今月17日、18日の両日には、神奈川県横浜市の横浜国立大学で「第8回防災推進国民大会(ぼうさいこくたい2023)」が開催される。「次の100年への備え~過去に学び、次世代へつなぐ~」をテーマに、関東大震災の震源地だった神奈川県で行われる今大会には、すでに過去最多の390団体・機関の出展が決定しており(7月31日時点)、講義型セッション、体験型ワークショップ、ブースでのプレゼンテーション、屋外展示など防災に関する取り組みや知見を発信・共有することで、一人一人の防災意識と、日本全体の防災力の向上が期待されている。
 首都圏直下地震など大規模震災の発生が懸念されるだけでなく、地球温暖化による気候変動が要因と思われる気象災害が世界各地で猛威を振う現在、どの国・地域も防災・減災を最重要課題として考え、対応するべき時代に入ってきている。大規模自然災害への防災・減災というグローバル化した課題に対して、「課題先進国」である日本が産官学、あらゆるステークホルダーの知恵や技術を結集させたオールジャパンで取り組むことで課題を乗り越え、真に災害に強い国になった先に、その災害対応力が世界に誇れるわが国の強みとして、将来の日本を安心・安全で持続的に発展する国へと推し進める原動力になるのではないだろうか。