うず
不用意な一言で
ほぼ気まぐれで受けたマーカー検査でがんの超早期発見につながり、手術も成功し、定期観察中の薬学者の実兄から心しなければならない話を聞いた。
何度目かの定期検査結果報告を受けに行ったところ、教授仲間紹介の主治医が不在で、代わりに対応した若い担当医が「いやぁ先生は『勝ち組』ですから」と発言したというのだ。「医療に関係する学者でもあり、お世辞含みで言ったのかもしれないが、患者としての俺はいい気持ちがしなかった。普通の患者にもそんな言葉を使うのか、不用意な一言だ」と常に冷静な科学者らしからぬ感想だった。
先年亡くなった家人が、以前自分に対してではないが「この治療をしても『負け戦(いくさ)』だからなぁ」という医師の発言をたまたま小耳にはさみ、ものすごいショックを受けたと語っていたことを思い出した。
気のおけない仲間うちで使用している言葉で、たとえ「勝ち組」「勝ち戦」であったとしても、現に病と闘っている患者本人に対しては絶対に発してはならない言葉だったと思う。なぜならば、その言葉は『負け組』『負け戦』の対極にありどうしても連想がそこに及んでしまうからだ。
本欄でも以前に「お客さまに普段使っている保険用語だけで説明するとご理解不足とご不安の元になる」との注意喚起を取り上げたことがある。さらに加えて、事故に遭遇したり困難に対峙されているお客さまに対して、激励のつもりでも不用意に発した何気ない一言が、思わぬご不快を引き起こしてしまうことがあるのではないか。特別な状況にあるお客さまに対する言葉には常に最大の注意をしなければならないと再認識した。(朗進)