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新ヨーロッパ通信

【新ヨーロッパ通信】独逸ビーバー奇譚(上)

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 ミュンヘン西部にあるニュンフェンブルク宮殿の森は、ドイツ最大の庭園として知られる。バイエルン王国の支配者ヴィッテルスバッハ家によって17世紀に建設が始まり、1799年に完成した。面積は180ヘクタール。東京ドーム38個分だ。庭園の大半は鬱蒼(うっそう)とした森であり、かつて貴族たちが舟遊びを楽しんだ水路や散歩道、休憩のための東屋(あずまや)や邸宅が設けられている。
 私は毎日この森でジョギングをしているが、先日、水路の近くに緑色に塗られた細長い金属の箱が置かれているのを見た。箱の周りには木の枝が重ねられている。これは、森に住むビーバーを捕まえるための箱わなだ。
 海狸とも呼ばれるビーバーの体長は、80~130センチメートル。重さは11~30キログラムだ。ネズミの仲間の哺乳類だが、後ろ足には水かきがあり、平たく大きな尻尾を使って泳ぐことができる。箱わなを使ってビーバーの捕獲が行われている理由は、近年この公園で、ビーバーによって切り倒される木が増えているからだ。
 実際、ニュンフェンブルク庭園でのビーバーによる食害は、かなり深刻だ。水路や池の近くでは、ビーバーによってかじられて倒れてしまった樹木がたくさんある。かなり太い樹木でも、幹の下の部分がぐるりと削られ、もう少しで倒れそうになっている。木の周りには、まるで電動のこぎりを使ったかのように木くずが散乱している。森林の管理事務所は、木の幹に金網を巻き付けて食害を防ごうとしているが、木の本数が多いので全ての樹木に防護措置を施すこともできない。ビーバーは夜行性の動物なので、夜間に木をかじる。このため、管理人が「犯人」を現場で捕まえることも難しい。
 ニュンフェンブルク庭園では近年、地球温暖化と気候変動の影響で害虫が樹木を食い荒らす被害が増えている他、暴風によって根こそぎ倒される木も多い。私は35年前からこの森に通っているが、樹齢が100年を超える見事な木が次々と失われている。そこにビーバーによる食害も重なっているのだ。
 ただし、ビーバーはドイツでは法律によって保護されており、駆除することが禁止されている。このため、管理事務所はビーバーを生け捕りにして公園から他の地域に運び、放しているのだ。樹木と希少動物を同時に保護するのは、なかなか大変である。
 (つづく)
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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