移民受け入れを加速するドイツ(下)
ドイツ社会は日本に比べると「外国人慣れ」しており、移民を受け入れやすい土壌がある。フランクフルトでは、市民の半分以上が外国人かドイツに帰化した外国人で、市長もイランからの移民である。私が住むミュンヘンの外国人の比率は28.5%で、ドイツで最も高い。ドイツに帰化した人も合わせると、外国系市民の比率は45%に達する。190カ国から来た人々がこの町に住んでいる。まるで万国博覧会の会場だ。
知人、友人の間には金融サービス企業で働くイタリア人、ロシア人、IT企業で働くスペイン人、ノルウェー人、カナダ人などさまざまな国籍の人がいる。ドイツに帰化して外務省で働く中国人もいる。税金と社会保険料を納め、法律に違反せず、議会制民主主義、三権分立、言論、信教の自由、人種などによる差別の禁止など、欧州人が重視する価値を共有する外国人は、ドイツでは歓迎される。
さらに、ドイツの企業は通常、全ての社員と無期限の雇用契約書を締結する。雇用契約書には、給与額、労働条件、社員の義務と権利が明記されている。経営側と社員が契約書に署名しなければ、雇用関係は成立しない。この契約書があるために、外国人でも安心してドイツ企業で働くことができる。万一トラブルが起きた場合は、契約書を持って事業所委員会(企業ごとの組合)や労働裁判所に駆け込めば、大抵労働者に軍配が上がる。
ドイツ人社員と外国人社員の労働条件の間に格差をつけることは禁止されている。その代わり、ドイツの会社は外国人だからと言って大目には見てくれない。ドイツ人と同じ成果を要求する。
ドイツは他国に比べて労働条件が良い。大半の企業が年間30日の有給休暇を100%消化することを許しているし、1日の労働時間は10時間に制限されている。テレワークは深く浸透し、無給で数カ月間の休暇を取るサバティカル制度もある。病気やけがで休んでも6週間まで100%給料が支給される。
日本の外の世界では、高技能人材の獲得競争が激化している。高度な専門技能を持った人々は、「どの国で働こうかな?」と各国の給与水準や労働条件を比べている。日本政府も法制度の整備を進めてはいるが、外国人の専門職業人はドイツほど社会に溶け込んでいない。大半の日本企業では雇用契約書が定着していない。高齢化と少子化が急速に進んでいる日本にとっても、人材不足に悩むドイツの窮境は決して対岸の火事ではない。
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
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