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新ヨーロッパ通信

雪道とエチケット

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 日本では1月下旬に、多くの地域が大雪や厳しい寒さに襲われた。私が住んでいるミュンヘンでもこの時期、まとまった雪が降った。
 ミュンヘンは海抜500メートルの地域にあり、地球温暖化の兆候が顕著に現れる前には、冬の気温がマイナス15度に下がることは珍しくなかった。雪も多かった。それだけに、東京に比べると人々や社会のインフラは雪慣れしている。
 雪の日には午前2時ごろから除雪車が出動して高速道路の雪かきを行うので、高速道路で車が立ち往生することはめったにない。
 この国では、雪が積もっている時に車の運転をする際には、トレッド(溝)が深く滑りにくい冬期用タイヤを装着することが義務付けられている。積雪時に冬期用ではないタイヤをつけていたことがわかった場合、60ユーロ(8400円、1ユーロ=140円換算)の罰金を科される。また、積雪時に冬期用ではないタイヤをつけた車で走っていて事故を起こした場合、車両保険の保険金が減らされることがある。
 ドイツでは雪が降ると、住民に公共心があるかどうかがすぐにわかる。公共心がある人は早めに雪かきをして、家の前の歩道に積もった雪を除去する。さらに砂利をまいて、通行人が滑って転ばないようにする。そうした場所は歩きやすい。アパートなどでは、雪が降ると管理人が朝6時からトラクターで歩道の雪かきをする。
 これに対し、面倒くさがり屋の市民の家の前の歩道には何日たっても雪が残っており、砂利もまかれていない。夜間の寒気のために雪が凍りついて、危険である。
 住民が雪かきを怠ったために通行人が歩道の雪で足を滑らせて転倒し重傷を負ったとしよう。この場合、被害者が「住民が雪かきを怠ったために、大けがをした」と主張して、損害賠償請求訴訟を起こす可能性もある。
 ドイツは米国ほどの訴訟社会ではないが、日本よりは他人を訴える傾向が強い社会である。個人賠償責任保険や訴訟費用保険に入っている人の比率が日本よりもはるかに高いのは、そのためだ。
 私は雨が降っても雪が降っても、ミュンヘンのニュンフェンブルク宮殿の森でジョギングをする。感心させられるのは、広さが180ヘクタールもあるこの公園でも、雪が降った直後にはトラクターで除雪が行われた上、細かい砂利がまかれていることだ。散歩やジョギングをする市民が滑って転ばないようにするための配慮だ。人々の努力が、北国の暮らしのインフラを支えている。
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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