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新ヨーロッパ通信

台湾と日本(上)

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 2023年3月、初めて台湾の土を踏んだ。この国は、アジアで最も興味深い国の一つである。私にとっては、日本のアジア支配時代の爪痕を見るという目的があった。東京の霞が関に相当する場所に、中華民国政府の総統府がある。1919年に完成した、日本旧総督府の建物が使われている。赤レンガと白い石が組み合わされており、1914年に完成した東京駅の駅舎に似た雰囲気もある。だが、旧総督府の高さ60メートルの塔には、東京駅とは違い、周囲を睥睨するような威圧感がある。
 日清戦争(1894年~1895年)で敗れた清国は、下関条約に基づいて台湾や遼東半島などを日本に割譲した。この結果、日本は1895年から1945年まで50年間にわたり台湾を植民地として支配した。
 私が驚いたのは、植民地支配という過去にもかかわらず、今日の台湾の人々の対日感情が悪くないということだ。中国や韓国ほどの「日本に対する厳しい態度」は感じられない。例えば、北京では深夜に抗日ゲリラの戦いを描いた映画などを多く流しているが、台湾ではそのようなことはなかった。
 私は過去43年間に数十カ国を訪れたが、日本語でホテルのチェックインができる国、日本語でレストランで食事の注文ができる国は、台湾が初めてだった。年配の人だけではなく、若者の間でも日本語を話せる人が目立つ。香港でも体験したことだが、不思議なことに、われわれは外見からすぐに日本人とわかるようで、こちらが口を開く前に相手が日本語で話しかけてくる。台北で道に迷った時には、台湾人の男性がわざわざ遠回りして、目的地まで付き添ってくれた。頭が下がるような親切さである。地下鉄の車内や駅には、日本のアニメや漫画を連想させる「かわいい」キャラクターのイラストが氾濫している。特に、日本の柴犬は人気があるようだ。レストランでも、すき焼き、しゃぶしゃぶ、ラーメンなど、いわゆる「日式」の食事をよく見掛ける。
 台湾は一時、日本帝国の支配下に置かれた。日本による支配に抵抗した台湾人や、少数民族は容赦なく弾圧された。例えば、1915年に起きた対日蜂起「西来庵事件」では2000人近い台湾人が起訴され、95人が処刑された。また、日本統治時代の台湾人たちは教育や就職の機会を与えられたが、昇進などで日本人と違う扱いを受け、差別された。そう考えると、今日の台湾人の日本に対する友好的な態度は驚くべきことだ。
 (つづく)
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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