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ドイツの犯罪統計と難民

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 「外国からの難民らをドイツ社会に溶け込ませる努力が限界に突き当たっている」。連邦内務省のナンシー・フレーザー大臣は、4月9日にこう語った。内務大臣はこの日、2023年度犯罪統計を公表した。
 統計によると、23年にドイツの警察が把握した犯罪の件数は前年比で5.5%増えて約594万件となった。犯罪件数が約5万件増えたことになる。警察が検挙した犯罪容疑者の数は前年比で7.3%増えて約225万人となった。内務省によると、このうちドイツ人の容疑者の数は前年比で1%しか増えなかったが、難民など外国人の容疑者の数は前年比で17.8%増えた。法律に違反した外国人が約14万人増えたことを意味する。
 ドイツ人による暴力犯罪の件数は前年比で2.2%しか増えていないが、外国人による暴力犯罪の件数は14.5%増えた。外国人による殺人、強盗、傷害、窃盗の件数も前年比で2桁増えており、ドイツ人による犯罪件数の増加率を上回っている。
 09年には容疑者全体に外国人が占める比率は21%だったが、23年には41%とほぼ2倍に増えた。
 フレーザー大臣は「外国人による犯罪の件数が増えている理由は、彼らを社会に溶け込ませようとする努力が成功していないからだ」と説明する。彼らがドイツ語を習得し、この国の慣習や価値観を受け入れ、就職して生活の糧を稼ぐことができれば、犯罪に走る外国人は減るはずだ。このため、ドイツの地方自治体は、この国に亡命してきた外国人たちに無料でドイツ語の講座に参加する機会を与えている。仕事が見つからない難民には国が住宅を斡旋し家賃を払うほか、毎月5万円の生活保護も支給している。
 ドイツに住む外国人のほとんどは法律を守り自分の力で生活の糧を稼いでいる。だが、この統計の数字は、外国人たちの一部がこの国の価値観や慣習を受け入れることを拒否し、社会のメインストリームから外れつつあることを示している。
 22年にEUに亡命を申請した外国人の数は約97万人だったが、25%に当たる約24万人がドイツで亡命を申請した。亡命申請者の数でドイツが最も多いのは、社会保障が手厚く難民に対する待遇が他の国よりも良いからだ。だが、ドイツの低所得層が、難民らに対する「社会的妬み」の感情を抱いていることは事実だ。この感情は、極右政党への支持率の高まりにつながる。
 ショルツ政権は、今後外国人、特に難民の社会への融合という難しい作業にこれまで以上に取り組まなくてはならない。
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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