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移民受け入れを加速するドイツ(中)

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 ドイツが移民法を改正して高学歴移民の受け入れを加速する理由は、働き手の不足にある。
 この国では近い将来、ベビーブーム世代がごっそり定年退職するので、労働力不足が深刻化する。ボストン・コンサルティングの試算によると、ドイツで1人高技能労働者が欠けると、毎年1人当たり国内総生産(GDP)が8万6000ユーロ(約1200万円、1ユーロ=140円換算)減る。ということは、税収や社会保険料収入も減ってしまう。
 ドイツ企業の職場では、「経験豊富な働き手が1人定年で辞めたら、他の人の仕事が増えてしまって困っている」という話をよく聞く。つまり、昨今の移民拡大政策の背景は、マルチカルチャー(多文化社会)の促進や外国人に対するお情けではなく、冷徹な経済問題なのだ。
 人手が不足しているのはIT分野だけではない。公共交通機関、スーパーマーケットからクリーニング店、大工、パン屋まで、働き手を募集している。私が住むミュンヘンの市営交通局は、乗務員不足のためにバスの本数を減らしており、停留所での待ち時間が長くなった。
 人手不足が特に深刻なのが、医療・介護部門だ。コンサルタント企業のPwCが昨年公表した報告書によると、2035年に医療・介護分野で不足する勤労者の数は、約180万人に達する見込み。私の知人の医師によると、ミュンヘンの大病院でもコロナ・パンデミック以降、集中治療室(ICU)で働く看護師の数が減ったため、手術を延期しなくてはならない例が増えているという。看護師がICUで働けるようになるには3年間の研修が必要だ。つまり、1人辞めると病院の損失は甚大なのだ。
 このため、ドイツ政府は「チャンス滞在権」という新しい滞在資格を導入する。少なくとも5年間ドイツに居住しその間に法律に違反しなかった外国人に対して、18カ月間の滞在権を与える。例えば、ドイツに亡命を申請したものの、すぐに難民として認定されなかったが、健康上・人道上の理由などから一定期間にわたり滞在を許されている外国人は約13万5000人に上る。
 こうした外国人がドイツ語を一生懸命学び、職業に就いて自分で生活の糧を得られるようになれば、長期的な滞在許可を取得することができる。ただし、工場やパン屋などで働くには、ドイツ語を話せることが不可欠である。若い移民ならば、必死で勉強すれば会話はできるようになるだろう。
 (つづく)
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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