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なぜW社はロシアから撤退したのか(中)

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 ドイツ最大の石油・ガス企業ヴィンタースハルDEA(WD)のメーレン社長によると、2022年2月以来、同社はロシアから国外へ送金することができなくなった他、合弁企業の銀行口座にあった20億ユーロ(2800億円、1ユーロ=140円換算、以下同じ)の預金が何者かに引き出されて行方がわからなくなった。同社は「わが社の資産や権益がロシア政府に国有化されるのを防ぐという理由で、ウクライナ戦争勃発後もこの国での事業を続けてきたが、プーチン大統領は合弁企業の銀行預金をあっさりと没収した」と驚きを隠さない。銀行預金をビジネス・パートナーに無断で引き出すとは、泥棒同然である。
 ロシア政府は、さまざまな嫌がらせによってエネルギー企業の首を締め上げた。例えば、昨年12月22日に発布した大統領令によって、WDが参加している合弁企業がロシアの国営企業ガスプロムに売ったガスの価格を、9カ月前までさかのぼって強制的に引き下げた。過去に計上した収益まで政府の一方的な決定によって減らされてしまうのでは、企業がその国で事業を続けることは難しい。
 23年1月18日には、プーチン大統領が新たな政令を発布し、合弁企業に参加している西側企業の議決権を無効化した。この政令は、エネルギー、機械製造、貿易に携わる合弁企業に適用されるが、西側企業を露骨に差別する内容だ。
 政令によると、ロシアに経済制裁を科している「非友好国」の企業が合弁企業に持つ比率が50%を超え、合弁企業の22年の売上高が1000億ルーブル(1880億円、1ルーブル=1.88円換算)を上回っている場合、その合弁企業は、ロシアの株主の議決権だけで企業の運営などに関する決定を行うことができる。
 WDのメーレン社長は「この政令により、われわれがロシアでの合弁企業に持っている権益は価値を失った。収益を受け取れないだけではなく、企業の決定にも参加できなくなった」と語る。同氏は「われわれは現実から目を背けてはならない。ロシアはあらゆる面で信用できない国になった。この国は、もはや信頼できるビジネス相手ではない」と断言する。
 WDは、22年第4四半期にロシア事業を同社の会計から切り離し、ロシアに持つ資産などを53億ユーロ(7420億円)の損失として計上した。同社は、今後はロシア以外の市場で事業を続ける。
 (つづく)
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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