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新ヨーロッパ通信

イタリアの農村に浸る

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 イタリア・ウンブリア州のペルージャの北約25キロの谷間に、ブルーナという小さな村がある。鉄道もバスも通っていないので、車でしか行けない。高速道路を降りてから、デコボコだらけの田舎道を揺られること20分。目の前に、見渡す限りのヒマワリ畑が広がる。黄色い海のようだ。全てのヒマワリが、太陽が上る東の方向を向いている。「向日葵」とは、うまい字をあてたものだ。ウクライナを舞台にしたソフィア・ローレン主演の映画「ヒマワリ」を思い出す。ウンブリア州には、至る所にヒマワリの海がある。
 民宿の建物は、ベージュ色の石を積み重ねて作られている。庭には、ゴッホの絵に出てくるような細い糸杉とオリーブの木が多い。さらに、紫色のラベンダーの花が庭を埋めている。ミツバチやチョウがラベンダーの花の間を忙しそうに飛び回って、蜜を集めている。民宿の建物から一歩外に出ると、ラベンダーの香りが鼻をつく。ウンブリア州では、ゴッホが住んだ南フランスと植生が似ている。
 ドイツにはセミはいないが、ウンブリア州ではセミの大合唱だ。ただし、ヨーロッパのセミは「ミーン、ミーン」とは鳴かず、「ジー、ジー」という鳴き声を出す。北ヨーロッパから来た人の中にはセミの声をうるさく感じる人もいるが、私は夏らしくて好きだ。
 この一帯の土地は、民宿を経営するムルロ家が所有している。広大な山野に、いかめしい塔がある屋敷や馬小屋、羊小屋などが散在している。使われなくなって屋根が落ち、ほぼ壁だけになった廃屋のベージュ色の壁が、濃い緑の植物との間でコントラストをなしている。
 イタリア人は、日本人と同じく食に執着する民族だ。辺ぴな土地でも、驚くほど質が高いレストランが見つかる。ブルーナ村にも、イル・カルダーロというレストランがある。広い庭に置かれたテーブルで、田園地帯を眺めながら食事をできる。ウンブリア州は、香ばしいオリーブ油やワインで知られる。山国なので魚介類は少ないが、子羊の骨付き肉を炭火で焼いたステーキは美味だ。キノコを使った手打ちパスタも、こしがあって飽きない。イタリア人はパスタのゆで方を知っている。麺の歯応えが勝負の、日本のラーメンと同じだ。
 ただし、夏のイタリアの田園地帯では蚊が多い。夕食を外で食べる時には、虫よけスプレーをお忘れなく。あるウンブリアのレストランでは、テーブルの近くに蚊取り線香が置かれていた。日本製蚊取り線香も、スーパーマーケットで買える。
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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