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キートン講師の「迷言」

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 『MASTERキートン』は1988年から94年にかけて連載された浦沢直樹さん作画の人気漫画だった。考古学者にしてロイズのオプ(調査員)、元SAS(英国特殊空挺部隊)の教官(マスター)という設定の主人公が世界各地で大活躍するサスペンスストーリーで、単行本も刊行され後にアニメ化までされた。一部の読者諸氏にはご記憶にあるかもしれない。
 その一話に、大学講師として古代ローマのコロッセウム(円形闘技場)での剣闘士の死闘がローマ市民の娯楽や賭けの対象となったとの逸話を講じたうえで、こう発言する場面がある。「一定期間内に加入者が死ぬか死なないかに金を賭けあうビジネス、すなわち生命保険です」。
 この発言は「名言」ならぬ「迷言」であり、一言でいえば保険に対する誤解だといえよう。一方、業界の新人や保険を学ぶ学生さんたちが、保険の意義や保険と賭博との違いを考えるきっかけとして、これをどう考えるかという問いとして良い発言かも知れないとも思っている。
 保険理論上で「保険」と「賭博」は厳密に区別されている。損害保険では「被保険利益」「保険価額」の概念などを通して利得禁止が貫かれ、生命保険では「大数の法則」の導入や「給付反対給付均等の原則」「収支相等の原則」の適用によって加入者間の公平性が導かれ、なによりも保険における「助け合いの精神」の存在が多くの先達者によって説かれてきた。
 しかし、現在も一般社会や販売現場においては、この「迷言」を妙に納得してしまう方が多々いることも事実であろう。だからこそ、われわれはあらためて保険の基礎理論・精神を学び直し、キートン講師以上の「名言」を発信していかねばならないと思う。(朗進)

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