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新ヨーロッパ通信

ウクライナ停戦交渉・欧州は蚊帳の外(1)

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 今年2月12日、トランプ大統領がウクライナ・ロシア戦争について行った発言は、欧州の政治家たちに強い衝撃を与えた。
 この日トランプ大統領は、プーチン大統領と約90分にわたり電話会談を行った。トランプ氏はその後、「私とプーチン大統領は、ウクライナでの戦争を終結させるために交渉を始めることで合意した。米ロ両国の代表団は、サウジアラビアで協議を始める」と発表した。トランプ氏は、プーチン氏との話し合いについて、「友好的で生産的な内容だった」と語った。彼はその後ウクライナのゼレンスキー大統領にも電話をかけ、プーチン氏との会談の内容を伝えた。2月18日には米国のルビオ国務長官とラブロフ外務大臣が、サウジアラビアのリヤドで4時間半にわたり最初の準備協議を行った。だが、ウクライナのゼレンスキー大統領とEUの代表は招かれなかった。両者はトランプ氏のプーチン氏との電話会談についても事前に知らされていなかった。
 トランプ政権は、プーチン氏との電話会談について公表する数時間前に、欧州諸国に冷水を浴びせるようなメッセージを送っていた。それは、米国のヘグセス国防長官が、2月12日にブリュッセルの北大西洋条約機構(NATO)本部で行った発言である。ヘグセス氏は、ウクライナ戦争の停戦交渉をめぐり、三つの見解を表明した。
 ①米国はウクライナが望む「安全の保証」や停戦監視団には加わらない。
 ②ウクライナのNATO加盟は非現実的だ。
 ③ウクライナ・ロシア間の国境線を2014年以前の状態に戻すことも現実的ではない。
 欧州諸国は、米国がロシアとの交渉を始める前に、これらの見解を公表したことに驚愕した。しかも米国は、ウクライナが切望していたNATO加盟や領土回復について譲歩を求める一方で、ロシアに対する譲歩については一切公表しなかった。つまり、トランプ政権は交渉を始める前から、ウクライナの立場を不利にした。
 ヘグセス国防長官の提案は、ウクライナ特使ケロッグ氏が24年に公表した論文を下敷きにしている。ケロッグ氏は論文の中で、「この戦争は、回避が可能な戦争だった。バイデン政権のウクライナ政策の失敗が、戦争につながった。バイデン政権はウクライナに武器を供与し続けるだけで、出口戦略を持っていなかった」と批判し、米国は直ちにロシアと停戦交渉に入るべきだと勧告していた。ケロッグ氏は、ウクライナのNATO加盟にも反対していた。
 (つづく)
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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