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【新ヨーロッパ通信】ドイツ人は保険が大好き
私が今から35年前にドイツに住み始めて気がついたことは、ドイツ人が保険が大好きであるということだ。一部の保険の普及率が、日本よりもはるかに高いのだ。
例えば、ほとんどのドイツ人は単体の個人賠償責任保険を持っている。価格比較サイト・チェック24が2024年2月に公表したアンケート調査の結果でも、「個人賠償責任保険を持っている」と答えた人の比率は、回答者の74.5%にのぼった。「持っていない」と答えた人の比率(20.2%)を大きく上回る。
その理由は、ドイツ人には心配性の人が多いからだ。米国ほどではないが、ドイツではトラブルが裁判に発展することが多い。例えば、洗濯機の水があふれてアパートの階下の住民の部屋に損害が生じた場合や、子どもが自転車で道に飛び出して他のサイクリストが転んでけがをした場合などに、他人から訴えられるリスクは大きい。
ドイツでは、子どもが森で火遊びをしていたところ、燃え広がって森に大きな損害が生じたケース、あるいは子どもが教会で火遊びをしていたら、教会が全焼したなどの事例が報告されている。これらのケースでは、子どもの親が1000万ユーロ(16億円、1ユーロ=160円換算、以下同じ)の損害賠償を請求された。このためドイツでは、てん補限度額が1000万ユーロを超える個人賠償責任保険を持っている人は珍しくない。
19年に行われたアンケート調査によると、2人以上の子どもを持つ市民の92.6%が個人賠償責任保険を持っていた。
もう一つ、ドイツで人気がある保険商品が訴訟費用保険だ。他人を訴える場合、あるいは他人から訴えられた場合の弁護士費用や、裁判費用をカバーする保険だ。家賃の支払いをめぐるトラブル、買った自動車をめぐるトラブルなどで、家主やテナント、自動車ディーラーなどを訴えざるを得ないケースに使われる。19年に行われたアンケート調査によると、回答者の46.3%がこの保険を持っていた。
ドイツ人にはリスク意識が強く、「万一こんな事態になったら、どうしよう」と考える人が多い。石橋を叩いて渡るような性格の人が多いのだ。「万一の事態」のリスクを減らすために、保険を買うのだ。彼らは保険料を、自分や家族を守るべく、リスクマネジメントのために必要なコストと考える。したがって、掛け捨ての保険でもいやがらない。
かくいう私も、保険にはずいぶんコストを使っている。ドイツでも、独身の若者の間では保険普及率が低い。楽観的で、心配しない人が多いからだろう。
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92