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新ヨーロッパ通信

【新ヨーロッパ通信】米国の目的はロシアと中国の離反?

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 今年2月以来の、ウクライナ戦争をめぐるトランプ政権の高官たちの言動からは、「欧州への関与を減らしていく」という姿勢がはっきり読み取れる。
 欧州では、「米国が突然ロシアとの関係改善へ向けて大きくかじを切った理由は、中国とロシアを引き離すためだ」という意見が出ている。フランクフルター・アルゲマイネ(FAZ)のニコラス・ブッセ記者は、2月22日に発表した論考で、「米国がロシアとの関係改善へ向けて大きくかじを切ったことの最大の目的は、中国の封じ込めだ」と主張した。1970年代に米国のリチャード・ニクソン政権は、ヘンリー・キッシンジャー安全保障担当補佐官(後に国務長官)が描いた戦略に基づき、ソ連と中国を離反させるために、突然中国との関係改善に踏み切った。72年2月にニクソン大統領(当時)が北京を訪問し、毛沢東主席と会談した。反共思想の持ち主だったニクソンが中国を電撃的に訪れて首脳と会談したことは、「ニクソンショック」として日本など同盟国を驚かせた。
 当時米国にとって、最大の脅威はソ連だった。ニクソンは中国との関係を改善することによって、中国とソ連の間の接近を防ごうとしたのだ。
 今日では、米国にとって最大の競争相手・脅威はロシアではなく、中国である。中国の軍用艦艇の数はすでに米国を上回っており、同国は軍事力において米国を追い抜くことを目指している。中国はロシアの天然ガスや原油を輸入するなどして、間接的にロシアを支えている。米国にとって、中国とロシア、さらに北朝鮮が協力関係を緊密化することは危険な事態である。
 そこでトランプ政権は、バイデン政権時代の対ロシア政策を180度変更してプーチン大統領に急接近することで、ロシアを中国から引き離すことを目指している。
 ブッセ記者は「ヘグセス国防長官などの発言から、米国が軍事的リソースの軸足を欧州からアジアに移そうとしていることは明らかだ。米国は戦術兵器による防衛については欧州諸国に負担させ、欧州での兵力を減らす。そのためにトランプ政権はNATO加盟国に、戦術兵器による防衛態勢を強化するための防衛支出の大幅な増額を求めているのだ」と指摘する。
 欧州諸国にとっては、将来米国が欧州への関与を減らした後も、核の傘を維持してくれるかどうかが、大きな焦点となる。万一米国が在欧米軍を撤退させたり、欧州との核兵器シェアリングをやめた場合、EU独自の核武装論が現実味を増すに違いない。
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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